第2話
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「あぁ〜だるかった!あんな説明会みたいなの開かなくたって小学生の林間学校じゃねんだから!」
入学式も終わり、学校生活ならびに寮生活についての注意事項やなんかを聞かされ体育館から延びる通路を渡って寮へ戻る途中、瑞季が伸びをしながら吐き捨てた。
『まぁ…一年だし、しょうがねぇって。寮って言うから結構校則とか厳しいのかと思ったらそうでもなかったしさ』
隣を歩いていた瑞季が立ち止まるもんだから、後ろを振り返った。
『ぅわぁっ!』
グイッとネクタイを引っ張られて、顔が間近に近くと瑞季はニヤリと口角を上げて笑う。
「校則なんか端からクソくらえのくせに良く言うぜ。おまえシャツも出しっぱだし、ブレザーのボタンさえ留まってねぇじゃん」
俺は肩を竦める。
素行が悪いのはお互い様だからだ。
瑞季は掴んでいたネクタイを雑に離して歩き出した。
俺は駆け寄ってまた横に並ぶ。
山の中の広大な土地に建てられた学園は何だか日本じゃないみたいな景色が広がっていた。
元々イギリスだったか何かの学校を真似て作られたこの学校に日本らしさは感じられなかった。
校舎も寮も、何だかお伽話の世界に出てくるアンティークな造りをしていたからだ。
寮は3階建ての木造。
至る所がギシギシ音を立てて、少し不気味なくらいだった。
廊下は裸電球が等間隔に並ぶだけだし、階段にいたっては木の手摺りが人の手で磨きこまれて黒光りするようだった。
「なぁ…あの階段の飾り彫り…オシャレじゃない?俺…嫌いじゃないわ。」
瑞季が寮に入って階段を顎で指しながら呟いた。
俺はそれをジッと見つめて返す。
『んぅ〜…瑞季好きそうだよな。…ほら、校長室の前に飾ってあった絵…なんだっけ…』
「あぁ…フレスコ画?…ミケランジェロのアダムの創造な」
『あぁ、それそれ…あぁいう西洋の何ちゃらみたいなの…あの絵見た時も瑞季、綺麗だなぁ…って言ってたもんな』
「…うん…綺麗だ…ただ…綺麗なだけだけどな」
瑞季はポツリと呟いて、一階の1番突き当たりの101号室とプレートが掛かった部屋に鍵を差し込んだ。
瑞季は時折思い詰めた顔をする。
多分俺みたいに平凡に育った奴には分からない…闇みたいな部分を秘めていて、時折見せるその部分に、俺はいつだって対処に困ってしまう。
何か言ってやりたいのに…とてつもない距離を感じて…無力な気持ちになる。
唇をキュっと結んで瑞季の後を追うように部屋へ向かったら、手前の102号室の扉が急に開いた。
中から出てきた小柄な男と肩がぶつかってしまう。
『あっ!悪りぃ』
「ぁ…こっちこそ、ごめんね」
肩をキュっとすぼめて胸の前で本を抱いていた男は上目遣いに謝り返してバタバタと走り去ってしまった。
すげぇ、目の色がブラウンだったなぁ…瑞季と同じくらい肌が白かったし。
お隣さんか…また後で挨拶でもしなきゃな。
瑞季無愛想だし、人見知りだから俺が円滑に回るようにベース作っとかなきゃ。
そんな事を思いながら部屋に入った。
部屋は二人一組の相部屋。
ベッドとデスク…小さな窓と、一階だから洗濯を干しに出れるようの勝手口みたいなのが付いていて、簡単な手洗いボールと小さな冷蔵庫が付いていた。
机やベッドもいちいちアンティーク調で、自分が日本人なのを忘れそうになる。
瑞季を見てたら尚更だった。
日本人離れした色素の薄い髪に、色白の肌。
母親譲りの綺麗な顔立ちは中性的で…あんなに無愛想じゃなけりゃもっとモテると思うわけだ。
俺は自分のベッドにドサっと座りこんで、向かいのベッドに仰向けになって寝転ぶ瑞季に声をかけた。
『夜は寮の集会があるらしいぜ』
「ヤダ…」
『言うと思ったけど…点呼あるから今日は行くべ』
「はぁ…分かったよ…」
『疲れたんなら暫く寝てろよ。行く前、起こしてやるから』
「ん〜…孝也いい奴なぁ。んじゃ、遠慮なく寝るわ」
瑞季は壁側に向いて猫みたいに丸くなった。
俺は肩を竦めて苦笑いすると、自分のベッドのシーツを瑞季に掛けた。
『風邪引くぞ』
声を掛けた時には…もう瑞季は夢の中。
『全く…俺居なかったら、おまえマジでヤバいかんな…』
軽口を叩いたけど…こうやってシーツを掛け直したりしちゃう俺は…
友達思いだなぁって
思うわけさ。
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