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ninon
第1話
1
幼馴染みだった。
笑って、泣いて、喧嘩して…
季節が過ぎて…いつしか…
それがあんな風に
苦しくなるなんて、誰が予想したんだろう。
あの時…おまえが齧った林檎が…
今でも目に…焼き付いてる。
春。
高校の入学式。
お互いに制服の臙脂色のネクタイが上手く結べなくてギャーギャー騒ぎながら結びあいっこをした。
「だからぁっ!下から通すんだよっ!ったく不器用だなぁ!」
『うるせぇなっ!不器用じゃねぇーしっ!』
「あぁ!もうっ!貸せよっ!んって顔上げてろ!」
『ん…んっ!』
シュ シュ シュルッ
ネクタイが擦れる音がして、俺は幼馴染みの市川瑞季(イチカワミズキ)にされるがままネクタイを結んで貰っていた。
手先と口だけは勝てない。
俺は杉野孝也(スギノタカヤ)。
この春から全寮制の男子高校一年になる超がつく不器用な男だ。
中学の時に隣の空き家に引っ越して来たのが瑞季だった。
瑞季の家は六人兄弟で父親が何人か違う。母親は若くて綺麗な人だったけど、気の強そうな顔立ちで俺は少し苦手だった。
俺の家は父さんが海外単身赴任中で、婆ちゃんと母さんと姉ちゃんの四人暮らし。
至って平凡な家族構成で、それにならって平凡な家族だった。
いつだったか雪が降っていた夜中に…外で物音がして、俺は怖かったけど、どうしてだか物音の正体を確認しないと眠れなくて、こっそり玄関を出た事がある。
そこには裸足で、鼻血を垂らした瑞季が家の塀に凭れ掛かりへたり込んでいた。
『おっおいっ!大丈夫かよ!』
手をかけようとしたら、パシッと乾いた音がして、俺の右手は弾き飛ばされていた。
「触んなっ…」
イラッとしたのは事実で、俺はそれでも強引に瑞季の手を引っ張り上げたのを覚えてる。
よろめく瑞季の細い肩を掴んで
『俺の部屋…行こう…』
瑞季は長めの前髪の隙間から俺を見上げ、急に大粒の涙をジワっと浮かび上がらせて、ポロポロ泣き出した。
あれから瑞季が泣くのは見た事がない。
あの時まで、俺達はただの隣人で、大して仲も良くなくて、なんなら挨拶さえままなら無い関係だったのが…
大きく変わるキッカケになったんだ。
瑞季は人見知り。
瑞季は口が悪い。
瑞季は…色が白くて、凄く華奢だ。
なのに強がりで…心配ばかりかける。
あの日から俺は瑞季をどんどん知る事になる。
雪の夜、瑞季が殴られて逃げて来た相手は…
瑞季の母親の再婚相手だった。
高校を受験する時、俺は瑞季と志望校を揃える決断をした。まぁ…決断て程の事はないんだけど。
頭の悪かった俺は、大してなりたいものも無く、友達と連む事くらいしか考えてなかったからだ。
その他の理由があるなら、瑞季の側に居てやらないとなぁ…なんて漠然とした思いがあったからだろう。
瑞季は寮のある学校を探していて、その理由は聞かなくてもすぐに分かった。
あの家を一刻も早く出たかったからだ…。
そして、俺達は偶然にも、寮の部屋が同室になる。
これは俗にいう…
運命だったと…思うわけだ。
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