第94話

そういえばあの人は私の目を見て“死んでもいいとは思ってんだろ”って言ったんだったよね…




“そういう奴は目を見ればすぐに分かるんだよ”って…





あんな人の言うことだからどこまでが本当かなんて分からないけれど、それでも今鏡に映る私の目はそんな先輩の言葉にすらどこか納得してしまうほどに冷たかった。




しばらくその目を見つめた私は、スッと目を逸らして鞄を持ち部屋を出た。




階段を降りていると、キッチンの方からカチャカチャと洗い物の音が聞こえた。


コーヒーの匂いもしてる…



そこには叔父さんと叔母さんが昨日と変わらない朝を迎えているんだろう。


私はリビングには行かず、玄関に鞄を置くと脱衣所へ行って歯磨きをして、顔を洗うとそのまま玄関に向かった。



リビングのドアは閉まっているからはっきりとは分からないけれど、靴を履こうと座り込んだ私にキッチンの横にある勝手口を開け閉めするような音がこちらまで微かに聞こえてきた。


時間的に、叔母さんがゴミ出しにでも行ったかな…




それならリビングには今叔父さんだけだろう。


それなら尚更もうこのまま私は学校に行こう。



どうせ朝である今も食欲なんてなかった。



今はとりあえず早く学校に行って、いつものようにスカートのポケットに忍ばせたあの鍵で屋上へ出たい。



一限サボろうかな…


今日は天気も良いみたいだし、夜あまり寝られなかった分ゆっくり昼寝でもして———…





「マリ?何やってるの?」


「っ、…!」


玄関に座って靴を履いていた私は、突然背後から聞こえた叔父さんの声に思わずビクッと体を揺らした。


座ったままの状態でゆっくり振り返ると、リビングのドアから叔父さんが顔を出していた。



呑気にサボることなんて考えていたから、ドアが開いたことになんて全く気付かなかった…




「もう行くの?」


「…うん」


「ご飯は?」


「今日はいらない」


「“いらない”?…どうして?」


「……」




…息が詰まる。


この家ってこんなに息苦しかったっけ…




…早く出よう。


そう思った私は「なんとなく」と答えながら正面へと向き直って履きかけだった靴に足を入れた。

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