第92話
翌朝、
———…コンコンッ…
「マリ?」
叔父さんはいつものように私を起こしに来た。
「起き」
「起きてる」
全身鏡の前に立って胸元に制服のリボンをつけていた私は、鏡の中の自分から一切目線を逸らさずに叔父さんの言葉を遮った。
いつもよりは寝られなかったとはいえ、数時間寝たら私の頭もだいぶ冷静になれたわ。
私があんな隙を見せるからいけないんだ。
だから叔父さんがあんなありえない行動に出てしまったんだ。
それに私は大事なことを忘れていた。
「…入っ」
「今着替えてるから」
「…あ、うん…分かった。…じゃあ先に下に行ってるね?」
「……」
私が何も言わないと、すぐにスリッパの遠ざかる足音が聞こえた。
…叔父さんはそう簡単に私を追い出したりはしない。
その理由が“可愛い姪っ子”だからなのか、
“三人で暮らすのも楽しい”からなのか…
はたまた“私が女子高生”だから、…なのか。
その辺は定かじゃないけれど、ここに来てからの毎日を思い返せばあれだけ常に私の機嫌を取るような態度の叔父さんが私の態度が気に入らないからというくらいの理由で手放すわけがない。
だからきっと私は叔父さんにわざわざ弱く出る必要もない。
お小遣いだってあんなにくれるし。
本当の意味で飼われているのは叔母さんじゃなくてきっと私の方だ。
…とはいえ、これからどうしようか。
昨日の夜中から私はずっとそればかりを考えている。
いまだにこれといった答えも出ないまま朝を迎えてしまった。
なんなら途中で寝てたし…
こんな状況でもいつのまにか寝ていた私はまだどこかで大丈夫だろうと安心してしまっているのかもしれない。
そんな自分に呆れながらも、リボンをつけられた私は今度はセーターへと手を伸ばした。
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