第90話

部屋に戻ると、私は叔母さんに言われたこともあってもう部屋の電気を付けずにそのままベッドに潜り込んだ。



もう寝よう。



なんか今日は本当に疲れたわ…



そう思い目を閉じたその時だった。







———…パタ、パタ、パタ…




部屋の前の廊下からこちらに近付くスリッパの足音が聞こえて、暗闇の中で私は思わず目を見開いた。




来るっ…




その足音が叔母さんでないことは明らかだった。


叔母さんは明日のためにまだきっとリビングで私の制服の水気をとる作業に追われているだろうし、何よりも叔母さんはあまりスリッパの音を立てて歩かない。


そのスピードも音の大きさも、もう何もかもが叔父さんのもので間違いなかった。






絶対、確実に、



間違いなく叔父さんだ。





———…コンコンコンッ



「…マリ?」



きっと書斎にいた叔父さんは私の足音や部屋のドアを閉める音で私が自分の部屋に戻ったことが分かったんだろう。



電気を消してベッドに潜っていた私はこのまま寝たフリをしようと、何も答えずになぜかベッドの中でひたすら動かないようにして身を潜めた。




「………マリ?寝たの?」




電気も消して返事も返ってこないんだから大体分かるでしょ…




———…ガチャッ…




「っ、…」




いつもなら一言何か言ってからドアを開ける叔父さんが何も言わずにドアを開けたことに、私は驚きつつも反射的にギュッと目を閉じた。


布団の中にあった私の両手の指先は微かに震えていた。




この一年ちょっと、ここまで叔父さんを“怖い”と感じたことは一度もなかった。






———…パタ…パタ…パタ…




確実に部屋の中に足を踏み入れた叔父さんのその足音に、目を閉じていた私の心臓はこれでもかというくらいにバクバクと激しく暴れ出していた。

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