第88話

「川口、ちゃんと考えてね」


『お前なぁ、散々急かすように聞いといてどの口がそれ言ってんだよ』


「うん。でも私はどっちでも良いからさ、私のことは気にせずに川口がしたいようにすればいいんだよ?」


『………おう』




何を今更偉そうに…


川口も思ってるだろうな。


結局コイツは何がしたいんだって。



「でもちゃんと来週までは待ってね」



そんなことは私にだってよく分かんないよ。


私って何がしたいの?


どうしたいの?



『だからそう言われてんだって』


「そっか、…そうだったね。明日は?部活ある?」


『明日はあるだろ』


「へぇ…」



それからは大して興味もないくせに、私は川口の部活の話をあれは?これは?と適当に聞いて電話を切った。



それからも私はしばらくじっとしていたけれど、濡れた制服のままでいるわけにもいかず着替えを手に持って部屋を出た。





リビングには電気がついていたから、きっとそこには叔母さんがいるんだろう。


もしかすると叔父さんもいたのかもしれない。



私はリビングには顔を出さずにお風呂場へと向かった。





私の体は私が思っていた以上に冷えていたらしく、頭と体を洗って湯船に浸かれば思わず「はぁっ、」と息を漏らしてしまうほどの気持ち良さが私の体全体を包み込んだ。




温かい…


私は今、何不自由のない暮らしをしている。


させてもらっている。





“もう限界です”





叔母さん…限界かぁ…








———…“マリ、早くお前もこっちへ来い”






そうだね、お父さん。


それも悪くはないのかもしれないね。


私も行っちゃおうかな、そっちに。



あっちでもこっちでも邪魔者になるなら、もうどっちでもいい気すらしてくるよ。




これだけ川口にしがみつこうと必死なくせに、こういう時は川口の「行くなよ」の言葉に力を持たせない私は薄情で自分勝手な人間だと思う。

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