第84話

私がゆっくり振り返ると、叔父さんは屈めていた背中をゆっくり伸ばしていた。






「マリ…?」





何でそんな平気な顔してんの…


どうしてそんな当たり前の顔でこの部屋にいて私の名前を呼ぶの…



自分が今何しようとしてたか分かってんの…?





「どう」


「叔父さん、」


「…うん?」



嫌悪感いっぱい。



それなのに…




…はぁ、私って情けない人間だな…




「…私、着替えたいんだけど」




ここまでされたって本当にこの家から追い出されるわけにはいかないから私は強くも出られない。


他人は他人なりに、ちゃんと立場を弁えなきゃならない。




それがどんなに危ない状況だったとしても。




「…うん、そうだね。だから手伝おうかと」


「着替えくらい一人でできるよ。私を何歳だと思ってるの」


私のその声はとても小さかった。



本当は大声を上げて、“何言ってんだよ、クソジジイ!!!”の一言くらいは言ってやりたいけれど、生きていくためには私はそんな暴挙に出るわけにはいかない。




…私は今、生きているから。





「…あぁ、そっか。そりゃそうだよね、…うん、ごめん!!着替えて髪を乾かしたらご飯も食べなきゃね…あ、でも先にお風呂で体を温めた方がいいかな…マリはどっちが良い?」


「……お風呂」


「うん、分かった!じゃあ叔母さんにもそう伝えておくから!何か欲しいも」


「いらない…何もいらないから…お願いだから早く出てって…」






“いや、お前が出て行けよ”…と、叔母さんの声が聞こえた気がしたのは気のせいだろうか。

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