第82話

「傘持ってなかったんだね。そういう時は連絡くれれば車で迎えに行ったのに…」


「……」


「今十一月だよ?体もすごく冷えてるだろう…可哀想に」


「……」


叔父さんは何も答えない私を気にすることなく部屋に入ってくると、背後からバスタオルでふわっと私の頭ごと包み込んだ。



「寒いよね?とりあえず暖房つけようね」



叔父さんはそう言いながら、勉強机の上にあったエアコンのリモコンを持ち上げてピッと暖房をつけた。



「この部屋は狭いからすぐに暖まるよ」


「……」


叔父さんは背後に立ったまま、私の頭に乗せたバスタオルで優しく私の頭を拭いていた。


そのタオルは驚くほどふわふわで、多分新品ではないのに新品なんじゃないかと思ってしまうほどに真っ白だった。



きっと叔母さんの洗濯の仕方が良いからなんだろう。


すごいな、叔母さん…


お父さんとお母さんと住んでいたあの家で、こんなふわふわなタオルなんて見たことないよ。




せっかく叔母さんが丁寧に洗濯したタオルを私が使うなんて勿体ないな…





叔母さん…





「どうしてこんな状態で部屋に来たの?お風呂場に行ってすぐにお風呂に入っても良かったのに」


「……」


「遠慮することないんだよ?ここはマリの家なんだから」


「……」





私にはもうこの人しかいないんだろうか。



私を受け入れてくれるのも、求めてくれるのも、私に生きる価値を———…




気付けば目頭が熱くなっていて、自分の顔が濡れているのが雨のせいなのか涙のせいなのかが自分でもよく分からなかった。

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