第80話

それからも叔父さんと叔母さんの会話は続いていたけれど、私はもうそれには耳を傾けずに脱ぎかけだった靴下をしっかり脱いで、脱衣所に行くのも忘れてそのまま階段の方へと向かった。



叔父さんは「あの子はここ以外に行くところなんて」とか「僕達が助けてやらなきゃ、」とか言ってくれていたような気がするけれど、私はもう自分の部屋に向かうために階段を上がっていたから最後まではっきりとは聞こえなかった。




部屋に入った私は、とりあえず電気を付けると濡れた制服をそのままに勉強机の椅子に腰を下ろした。



それからすぐに背後にある部屋のドアの向こうから階段を上がるスリッパの音が聞こえてきて、部屋の電気を付けていたらまだ帰っていないと思っていた私がいることに驚くだろうなと思ったけれど私はもう何だか全てがどうでも良くなっていた。



勉強机の椅子に座って俯いたまま、ポタポタと横髪の先端から落ちてくる雨の雫を私はひたすら眺めていた。






本格的に自分は邪魔な存在なんだと思えば、自分の生きている意味や価値がいよいよ分からなくなってきたな。




生きてるのか、死んでるのか、



生きたいのか、死にたいのか、




もう何も分からない。




私って一体何のために———…





「———…れ?」




微かに聞こえたその声は確実に叔父さんのものだし、それが私の部屋の明かりを見て発せられた言葉だということもすぐに分かった。





———…コンコンッ




「マリ?帰ってるの?」



「……」





叔父さん、叔母さんとの話はとりあえず終わったのかな…







“隣のクラスの白川って子知ってる?”


“そうそう。俺今日その子に告られたんだ”


“…マリ、お前どう思う?”


“お前見てると今にも死にそうだなって思う時ある”




“いつまであの子の面倒を見る気なんですか”


“私からすれば赤の他人としか思えないに決まってるじゃない”


“私はあなたのようにはどうしても思えない”






“早く出て行って欲しい”








頭が、




割れるように痛い、…

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