第76話

それで私が死ぬハメになったって川口は悪くないしきっとそれが私の運命だよね。


でも私だって案外平気な顔をしてあっさり他の相手を見つけて生きてるかもしれないし。




たぶん死んでもいいとは思ってる。



でも実際の私に死ぬ勇気はきっとない。








「…っ、はぁ…」



これからの人生、長くなりそうだ。


私は静かに深く息を吐くと、そのまま何となく目を閉じた。





なんだろうな。



今、無性にあそこに行きたい。



目を閉じたままスカートのポケットに右手を入れると、そこには変わらずあの鍵があって私はそれに指先で触れた。





…いやまぁ雨だしもう夜だし、今から本気で行こうなんて全く思ってないけどさ。




なぜか傷心のような気持ちを抱えて叔父さんの家の最寄駅で電車を降りれば、雨はより一層強さを増していた。




「うわ、すご———………あっ!!!」




改札を抜けた私は、自分が今鞄しか持っていないことに気付いて慌ててホームの中を振り返った。




私が乗ってきた電車はもうそこにはいなかった。




川口の傘…置いてきちゃった…



たかが二駅くらいでシートになんか座っちゃうからこうなるんだ。


それにずっと持ってればいいものをほんの少しの気の緩みから傘を横に置いちゃったから…



なんで私あの時傘から手を離しちゃったんだろう…





川口に悪いことした…



まぁ忘れちゃったもんは仕方ないか。


今はそれより…



「どうすんのよ、この雨……」



駅から叔父さんの家までは走ればすぐだけど、この雨ならどんなに近くたってどんなに走ったってきっとずぶ濡れになる。











…ま、これも仕方ないか。







仕方ない、仕方ない、




あれもこれも全て“仕方ない”。




何なのよ、私の人生は。





「はぁっ……もうどうでもいいわ…」




走ったってどうせ濡れるならもう歩いて帰ってやるし。


無駄な抵抗はしない。

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