第75話
傘があるとはいえ、流石に足元は家に着く頃には濡れそうだな…
帰るだけだしそれでも問題はないか。
「さっむ…」
雨のせいで空気は余計に冷えていて、私は体を縮めるようにして駅へとひたすら足を進めた。
駅にはそれなりに人が多かったけれど、私は運良く電車の中で座ることができた。
まぁ二駅分だし座るほどでもないんだけど…でも冬の電車のシートって温かいんだよなぁ…
川口の家から駅までは歩いて五分もかからなかったけれど、あの川口の部屋の電気ストーブで温まっていた私の体の熱を芯から奪うには十分な距離だった。
お尻あったかい…
私は自分が座っていたシートの右側に傘を立てかけるようにして置くと、両手を擦り合わせた。
手もすごく冷たい…
今日のご飯なんだろう。
叔母さんのことだから、きっと体がしっかり温まるようなメニューなんだろうな。
電車の中はそこまで混んでいなくて、二駅分とはいえ座ることに罪悪感は全く感じなかった。
これなら二駅とは言わず、叔父さんの家がもっと遠くても良かったかもしれない。
シートに座ったまま振り返って見える車窓からの景色ももちろん真っ暗で、その中で次々に流れるお店や家の電気を私はひたすら目で追いかけていた。
私の頭の中にあるのは今日川口に言われた白川さんのことだった。
そっか。
あの子って川口のことが好きだったんだ。
接点とかあったのかな?
“俺今日その子に告られたんだ”
…いや、あの言い方だと特に接点もなさそうだな。
川口って他の人から見たら格好良いのかな…
当たり前に隣にいたからもう分かんないな…
そっか…
これからはもうその当たり前は私の当たり前じゃなくなるかもしれないのか…
川口を手放す覚悟ができたかどうかは分からない。
でもそこに私の覚悟なんてものはどうでもよくて、やっぱりこれは川口が“ちゃんと考えて”決めることなんだと思う。
もちろんそれは私じゃなくて白川さんのことだけを。
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