第74話

「マサヤ!」


「でもコイツがいいって言ってんじゃん」


「そういう問題じゃないでしょうが!」


「はぁ?じゃあどういう問題だよ」


二人がまた私のことで言い合いを始めて、私は慌てて靴を履いて立ち上がるとまた二人の方を振り返った。



「本当に私は平気です!」


「…大丈夫?」


川口のお母さんは今も心配そうに私を見ていたけれど、川口は「ほら」とお母さんに向かってどうだと言わんばかりの顔で呟いた。



「はい、ありがとうございます。お邪魔しました」


私が深く頭を下げると、川口のお母さんは少し遠慮気味に「いえいえ」と言った。



「川口、また明日学校でね!」


お母さんの前なんだから“マサヤくん”と言うべきだったかとも思ったけれど、彼女でもない私にそんな気遣いは必要ないと思えばそれに対する後悔のような感情は全く湧いてこなかった。


「おう」


「傘ありがとうね!」


「気を付けろよ」


「うん!」




———…ガチャッ…




玄関を開けて外に出てみると、川口のお母さんの心配にも納得できた。



学校を出た時よりも雨が強い…



それでも二人にこれ以上気を遣わせたくなかった私は、川口の家の中を振り返らずにそのまま玄関のドアを閉めた。









…ま、傘があるだけマシだよね。


私はバンッと川口に借りた大きな傘を勢いよく開くと、そのまま躊躇いなく足を踏み出して駅に向かって歩き始めた。

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