第70話

「じゃあもし付き合うってなったらさ、私と川口はこれまで通り?」


「いやいや、それはない」


川口のその迷いのない答えに、“川口はそういう奴だった”とこんな当たり前のことを聞いてしまったことをほんの少し後悔した。



「でも私また生きてんのかどうか分かんなくなるよ?」


「だろうな。お前見てると今にも死にそうだなって思う時ある」



だったら尚更だよ。


私ってこれからどうやって生きて行くの…?



「…そのまま死ねって言ってんの?」


「ははっ、まさか」




“私はこれからどうなるのか”


川口にそれを投げて返ってくる答えなんて簡単だ。



“知らねぇよ”



川口は優しいからはっきりとした言葉でそんなことは言わないだろうけれど、私が死のうが他に生きてるんだと感じさせてくれる誰かを見つけようがきっと川口からしてみれば関係ないしどうでもいい。



私達は、私が思うほど深い関係でもなかったのかもしれない。




私にとっては割と重要なその話題は、漫画のページを全く捲らなくなった私に気付いた川口によってあっさりとすり替えられてしまった。



「てかお前これちゃんと漫画読んでんのかよ」


「…あ、うん。読む」


「無理して読まなくてもいいぞ?」


川口にその気があったかどうかは分からないけれど、川口の話題のすり替え方はあまりにも自然で私にはもう戻し方なんて分からなかった。




「無理なんかしてないよ。キリのいいところまで読んでおかないと次分かんなくなるから」


「ふぅん」



もっと言えば、“次”があるのかすらも疑わしい。


私達って、案外脆い関係だったんだなぁ…




私は漫画のページを一枚捲ると、また漫画を読むのを再開した。


そうすれば、川口もまた私の読む漫画を一緒に見ているようだった。



右肩に乗った川口の頭は少し重かったけれど、それをどけろなんてことは全く思わなかった。



こんな時間も今となっては貴重なのかもしれないし。




「…あ、そいつもうすぐ死ぬぞ」


「え、そうなの?」


「あぁ。…あ、コイツこの後裏切る」


「えっ、マジで………ってかネタバレすんなよ」



川口は私のツッコミに「はははっ」と笑うとまたさらに私を抱き寄せる腕に力を入れて私の右肩に擦り寄った。

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