第67話

私はまだここにいる意味はあるんだろうか。


漫画だってもう結構どうでも良くなってきていた。



そんな私の気も知らないで、五分ほどして戻ってきた川口は私の顔を見るなり「はぁっ、」と大きなため息を吐いた。





…これさ、私が川口のことが好きだったらもう川口ってマジで最低最悪な男だよね?


どんなに好きでも一瞬で冷めちゃうでしょ。



でも私の場合それには当てはまらないから冷めるも何もないんだけどさ。




でも一丁前にちょっとだけ傷付いたりはするんだよ?




川口は部屋の戸を閉めるとそのまま私の前を通ってまたさっきと同じように私の右隣に腰を下ろし、すぐに携帯に手を伸ばしたかと思うとまたさっきのように携帯をいじり始めた。


私はそんな川口の行動をじっと目で追っていた。



「……」



「……」




この空気は…



私が悪いんだろうか。




「…まだいんのかよって感じ?」


「えっ?」


川口は携帯からパッと顔を上げるとすぐにこちらへ顔を向けた。



「ヤんねぇなら帰れよって感じ?」



本当にそんなことを思っていたとしても川口なら実際そんな言い方はしないと思う。



でもこういうのって、中途半端に傷付くのが一番辛いんだよね。


だから極端でもいいから、


ちょっとオーバーなくらいでもいいから今川口が思っていることを教えてほしい。



そう思うと同時に、川口のことが好きじゃなくて良かったなと思った。



たぶん好きだったらこういうのって耐えられないと思うから。


まぁ私には好きとかっていうのはよく分かんないんだけどさ。




「は?そんなこと思ってねぇよ」


川口は少しムッとした顔でそう言うと、私の方を向いたままいじっていた携帯を畳の上に放って私のお腹あたりに両腕を回し、私の右肩に頭を乗せた。



「母ちゃんがうっせぇから」


「やっぱりさっきの音お母さんだったんだ」


「おう。彼女か?とかお菓子いるか?とか。…放っとけっつうんだよ」


私の右肩に頭を乗せたままいじけるようにそう言った川口は少し可愛かった。



「で?」


「ん?」


「“彼女か?”って聞かれてなんて答えたの?」



そんな分かりきったことをわざわざ聞いて、


私はどうしたいんだろう。



「違うって言った」


「だろうね」



でもわざわざそれを聞いた理由は何となく分かっていた。

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