第64話

シャツの下には素肌が現れるのだとばかり思っていた私だったけれど、これはびっくり。



シャツを脱いだ川口はTシャツ姿だった。


そしてそのTシャツは脱がないらしく、川口は両手を私の顔の横につくように体を倒してきた。




「なんか背中からゾクゾクする。キスだけで勃ちそう」



“ゾクゾク”?


“勃ちそう”?



誰と比べてそんなことを言ってるんだろう。


私は誰よりも川口に満足のいくキスをしてあげられているんだろう。




嫉妬や怒りはない。


ないんだけど、私は川口のセックスの一番の相手でいなきゃこれから先の人生生きていけないのかと思うと今までにはなかった変な焦りが見え隠れし始めていた。




私ってこの“生”にしがみつきたいのかな?




そうまでしてでも私って生きたいってこと?




なんかもうごちゃごちゃしてて訳分かんないわ…





「分かる?この感じ」


「勃ちそうは分かんないよ。女にはついてないんだから」


「あぁ、そうか。そりゃそうだよな。でも相性は良いと思うだろ?」


「分かんない…私川口としかキスしたことないから」



私の素直なその言葉に、学校を出る時と同じような嬉しそうな顔をした川口は「やべぇ、勃った」と笑いながら言って私の鎖骨あたりに顔を埋めて舌を這わせた。


川口の嬉しいポイントってよく分かんないわー…



てっきり私は白川さんに告られたことが嬉しくて機嫌が良かったのかとも思ってたし。



私の鎖骨あたりでクチュクチュと音を立てる川口に、私はそっと目を閉じると無意識で右手は川口の左耳を触っていた。



無意識で川口の弱い左耳を触るなんて、たしかに私達は相性がいいのかもしれないね。



「きもちいっ…」


私が思わずそう声を漏らせば、川口は依然私の鎖骨あたりに舌を這わせながら右手で私の太腿を撫で始めた。





———…とその時、





…カタンッ





一階の方から、玄関が開くような音が聞こえた。






「…え……誰か帰ってきた?」


「ぽいな」


川口はそう言いながらも顔を上げることなく私の鎖骨あたりをひたすら舐めていた。



「ぽいなってヤバくない?」


「母ちゃんだろ」


川口は私にちゃんと言葉を返しながらも中断する気はないようで、私の膝裏を両手で持ち上げるように開いて自分の体を私の足と足の間に挟み込んだ。


「大丈夫なの?」


「玄関にローファーあるんだから気ぃ遣って上がってはこねぇだろ。まぁ一応声は抑えとけな」




…と、ここまでは私の中にもまだ本当に大丈夫なのかという不安があったのだけれど、川口の右手の指先が私の下着の隙間から中に入ってきたからもうなんか一瞬で何もかもがどうでも良くなった。



まぁ川口のお母さんがここに来たところで困るのは私じゃなくて川口だろうし、その川口がいいと言うならもうこれは続行してもいいんだろう。

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