第58話

「…何やってんの、川口」


「漫画読んでる」


「……」


「お前がこの前読みたがってた続きのやつ、返ってきてるぞ」




あぁ、なんか前に誰かに貸してるとかなんとかで途中までしか読めなかなかった漫画があったような…




「…読む」


「おう」


私はすぐに起き上がって川口の左隣に座り込んだ。


その距離はいつもの私達の距離なのに、なんだかもどかしく思えた。


それが近いという意味でもどかしいのか、


遠いという意味でもどかしいのか…



それは私自身にも際どくてよく分からなかった。



「……」



「……」



雨は依然強いままで、川口の部屋の小さな窓にバチバチと勢いよくぶつかり続けていた。



「……」



「……」



私達は黙ったまま、ひたすら漫画を読んでいた。




「雨すごいね」


私が読んでいた漫画から一切目を逸らさずにそう声をかければ、川口も漫画を見つめたまま「おう」と言った。


「この家吹っ飛ばされそうじゃない?」


「ははっ、言えてる」


「築何年?」


「知るかよ、んなこと」


「予想では何年?」


私のその言葉に、川口が漫画から顔を上げて少し考え込むように部屋を見渡したのが視界の隅で確認できた。



「…百年とか?」


「バッカ、それはさすがにないでしょ」


私もつられるように漫画から顔を上げて川口を見ると、川口もいつの間にかこちら見ていた。

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