第57話

心構えをしておけってことなのかな。



俺とお前の関係はいつまでも続けられるようなものじゃないんだぞって意味だったのかな。







私は川口にとっても邪魔者なのかもしれない。



そう思えば何とも言えない寂しさや不安が押し寄せたけれど、あの鍵があるせいか私の頭はどこか冷静だった。


やっぱりあの鍵は私にとって“最終手段の逃げ道”なのかもしれない。








川口の家は少し古い木造で、こういっちゃあなんだけど高級感のある叔父さんのあの家とは大違いだ。



狭い階段を上がれば二階には左右に二部屋しかなくて、右はお兄さんの部屋らしくて私は左の川口の部屋にしか入ったことはない。



今日もお兄さんはいないみたいだった。




雨がひどいせいか、川口の部屋は電気をつけてもかなり薄暗かった。







「今日うち来るか」



川口の誘い文句はこうだった。




何をするなんて決まっていないけど、川口の家に行ってすることなんて限られている。


でも別にそんなものはいつも明確にあるわけではなくて、適当にどうでもいいことを喋りながらゴロゴロするだけして帰る日だって少なくない。





なんか今日は疲れたな。


主に帰りの道中。



私は鞄を適当な場所に置くと、そのまま川口のベッドにドンッとうつ伏せにダイブした。




「お前、くつろぎすぎだろ」


「…疲れた」


「そうか?今日の授業比較的ラクじゃなかったか?」


「……」



違うし。


私が疲れたのは主に帰りの道中だし。



体力的にじゃなくて精神的にだし。



てかそう考えると私って燃費悪すぎ…




「はぁっ…」


川口の大きく息を吐く声が聞こえて顔までうつ伏せになっていた私がそちらに顔を向けると、川口はブレザーを脱いでセーターになり、こちらに背を向けるようにしてベッドを背もたれに座り込んでいた。



部屋の隅の電気ストーブはいつの間につけられていたんだろう。


電気ストーブはひたすらブォーッという地味な音を出していた。

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