第55話

リセット…



できるのかな。





私はそれで満足するのかな。




そんなのやってみなきゃ分かんないか。




誰にも答えなんて分からないことを頭の中に浮かべては“考えるだけ無駄だ”とすぐにそれを投げ捨てる。



そうそう、これが私のいつものやり方なんだった。




もうやめよう。



死ぬ時はどうやったって死ぬんだから今何を考えたってどうしようもない。







駅に着くまで私達は何も話さなかった。



その間にチラッと川口を見ると、川口はやっぱり真剣な顔をしていた。



きっと川口は今白川さんのことで頭がいっぱいだ。



嫉妬とかじゃないけど、そんな川口に私はなぜか少しイラついて絶対にこちらからは話しかけないでやろうと心に決めた。




それが川口に伝わったかどうかは分からないけれど、川口は駅に着いて傘をたたみながら少し遠慮気味に口を開いた。





「…マリ、」



もう川口には学校を出る時に感じた機嫌の良さそうな雰囲気なんてどこにもなかった。


だからって機嫌が悪いってわけではなかったけれど、私を気遣うような、申し訳なさそうな…きっと川口は今機嫌どうこうとかじゃなく白川さんに言われた通り“ちゃんと考えて”いたんだと思う。


その方向によっては私との関係もこれまで通りとはいかなくなるだろうし、そして川口の意思がそっちであるから私に気を遣うようなこんな変な空気が生まれてしまったんだろう。




「うん?」


「お前どう思う?」



でもだからってそれを私に聞くのはちょっとおかしいよ?


お門違いにも程があるでしょ。



主語のなかった川口のそれは間違いなく白川さんのことを指していた。



「可愛いと思うよ。性格も…まぁ良いんじゃない?一回も話したことないからよく分かんないけど」



私は自分が最後に言った“よく分かんない”に、我ながら意地悪な奴だなぁと思った。




迷うってことは揺らいでるってことで、


アリかナシかで言うと、川口の中で白川さんは間違いなくアリだということだ。



てかもうそれを私に聞く時点で結構答えって決まってるんじゃない?




私はその目に見える一押しをわざと押さなかった。

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