第53話
「部活無くなったのが嬉しいの?」
「まぁそんなとこ」
「サッカー嫌いなの?」
川口は中学の時から、今も変わらずサッカー部に所属しているらしい。
それが“らしい”なのは、私はいまだに川口がサッカーをしている姿を見たことは一度もないから。
おまけに川口もサッカーの話なんて全然私にはしないもんだから、なんだか川口とサッカーが私の中であまり結びつかない。
「嫌いだったら部活なんか入んねぇだろ」
「そっか…そりゃそうだよね」
「おう」
ほら、
ちょっとその話題に触れたってそれをどちらも掘り下げようとはしない。
まぁ私はサッカーなんて全く詳しくないから話されたところで興味ないって態度を前面に出しながら適当に相槌を打つだけなんだろうけど。
きっと川口だってそれが分かっているから私にサッカーの話をしないんだろう。
だって私達を繋ぐものはもちろんだけどサッカーなんかじゃないから。
だから私は、川口がボールを追いかけて走るところすらも想像できない。
ボールを?
追いかけるの?
川口が?
…何それ、ちょっと面白い。
隣で傘を持って歩く川口にバレないように、私は一人で川口が必死にボールを追いかける姿を想像して少し笑っていた。
サッカーってそもそもそういうものだし、傘に入れてもらっておいて笑い者にするだなんて私はなんて失礼な奴なんだろう。
…と思いつつもやっぱりちょっと面白くて、それを川口に伝えようと隣の川口を見上げた。
でも、私は川口に声をかける直前でそれを思いとどまった。
川口が何やら真剣な顔をしていたから。
…どうしたんだろう。
川口らしくな———…
「…お前さ、」
また正面を向いて目線を落としていた私は、突然聞こえた川口の声にパッと目線だけを上げた。
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