第50話

「おいおい、マジかよ?」


何も言わずにあの先輩のことを思い出していた私に、川口は怒ったような口調でそう言った。


「え?」


「お前そんなことするために鍵欲しがってたのか?」



川口の怒りは結構マジだった。



「待って待って、私じゃないよ。私なわけないじゃん」



その言葉に嘘はない。


私はパイプ椅子なんて投げてない。



川口は眉間にシワを寄せてまだ少し疑っているような目で私を見ていた。



「いやマジでやってないって。信じてよ」



私の言った“信じて”に、川口の張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。




「………おう、分かってるよ。念のための確認だ、確認」




私は川口のその言葉に“嘘つけ”と心の中で毒を吐いた。



思いっきり疑ってたくせに。


それでバレた時に鍵の出所まで漏れて自分に被害が来るとでも思ったのかな。



…ま、川口が何をどう思おうがどっちでもいいんだけどさ。



「はぁっ、」と安堵の息を漏らす川口に、私はゆっくりと口を開いた。




「川口ってさ、」



そんな私に、川口は何も言わず目だけをこちらに向けた。



「私以外にもあの合鍵を渡した人いるの?」



先輩はどうして鍵を持ってたんだろう。


そんなのもうどうでもいいやとずっと思っていたはずなのに、それが今になってなぜかとても気になった。



「そんなもんいねぇよ」



そうか。


じゃあ川口経由ってわけではないのか。



じゃあ誰経由?


それとも自分でやったとか?



“普通の生徒が鍵を簡単に持ち出すことなんてできない”とか“どうやってここの鍵持ち出したんだよ?”とか言ってたし、先輩もどうにかあそこの鍵を持ち出したのはたぶん間違いないよね?



あれもこれも、先輩からは掘り起こせばいろんな罪が出てきそうだな。

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