第49話
アイツはちょっと馬鹿なとこもあるけど面白いし優しいとこもあるし、何より今私を生かしてくれているのはきっと———…
「…なぁマリ、」
窓の外を見ていた私は、ちょうど頭の中で考えていた川口本人の声が聞こえて少し驚きながら声のした方へ顔を向けた。
川口は私の斜め前に立っていて、私がそちらを向いたことですぐに空いていたシノちゃんの席にこちら向きに腰を下ろした。
「ん?どうしたの?」
「あのさ…」
川口は声を潜めていて、そんな川口に私は思わず椅子の背もたれにつけていた背中を離して川口に顔を近付けた。
「…うん?」
「あのパイプ椅子事件、お前じゃねぇよな?」
「……え?」
「いやだってほら、あの日俺お前に合鍵やっただろ?それにその日の昼休みお前教室にいなかったし」
そっか…
真実にたどり着ける人間はちゃんとここにいたんだ。
なーんだ。
つまんないな…
「答えろよ。お前じゃねぇんだよな?」
川口は不安そうに私を見つめていた。
その口調からは私であってほしくないという思いがひしひしと伝わってきていた。
もうみんな、あのパイプ椅子は誰かを狙って落とされたものなのだと思い込んでいるから。
確かに先輩は“落とした”けれど、誰かを狙っていたわけではない。
じゃあなんで落としたんだと聞かれればそれは私にもよく分からないけど…まぁ強いて言うなら私のせいじゃないかな。
きっとあれは、私を試していた。
そして慌てて屋上へ戻った私は、その試しにまんまと乗ってしまったのだろう。
その結果、
“お前案外良い奴だな”
あの時の私、そんな焦った顔してたのかな…
まぁあの人のことだからその本意はよく分かんないけど。
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