第47話

私は好きな時にここに出入りできればそれで良かったし、先輩だってきっと唯一の癒しスポットであるこの場所を失わないならなんでも良かったんだと思う。




それから一週間、私は屋上へは行かなかった。


特に行かないようにしていたというわけではなく、行きたいと思わなかったから行かなかっただけだ。




それでもその一週間、私はあの先輩のことが頭から離れなかった。


でもそれはもちろん愛とか恋とか胸がドキドキするだとかそんなものじゃなくて、先輩があの日屋上から投げ落としたパイプ椅子の件が学校中で大問題になったからだ。




もちろん先輩が屋上からあの椅子を投げ落とす瞬間を見た人なんて一人もいなくて、そしてあの校舎の屋上が施錠されていることから先生達は「おそらくあのパイプ椅子は三階か四階から落とされたものだろう」と推測していた。


それが二階ではなかったのはきっと落ちてきたあのパイプ椅子の衝撃の強さで判断されたのだと思う。


そしてそれが“落ちた”ではなく“落とされた”だったのは、あの時下にいた生徒の誰かが言っていたように窓から誤って椅子を落とすことなんてまずないだろうし、ちょうどあの椅子が落ちてきたあの校舎の二階から四階までにはベランダがあった。


ベランダにパイプ椅子を運ぶことなんて滅多にない。


それが別棟なんだから尚更だ。



だからより一層“誰かがベランダから故意で落としたのだろう”とこの学校にいる先生や生徒の誰もがそう思っていた。





———…真実を知る私とあの先輩以外は。





先生達は翌日からすぐに犯人探しを始めたけれど、一週間経った今、何の話も流れてきていないからきっとまだあれがあの先輩の仕業だということはバレていないんだと思う。


そりゃそうだ。


あれは三階や四階ではなく屋上から投げ落とされたものだったんだから、いくらあの時三階や四階にいた人間を探し回ったってあの先輩になんてたどり着けやしない。







あの先輩はこの一週間、どんな気持ちで学校生活を送っていたんだろう。


あの時みたいに、事件だと騒ぐ先生や生徒達を見てクスクス笑っていそうだ。



そんなあの先輩を想像して、私も心の中では笑っていた。

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