第45話
本当に落ちたんじゃないかと思っていた先輩は、
ちゃんとそこにいた。
先輩はさっき立っていた段差に隠れるようにして、こちら向きに座りこんでクスクス笑っていた。
「今これ上から落ちてきたよね!?」
「直撃してたらヤバかった!!!」
「誰だよ、こんなの落としたの!!」
「落とした?落ちたじゃなくて?」
「パイプ椅子外に落とす奴なんかどこにいんだよ、絶対わざとだろ!!」
下が一気に騒がしくなって、ここは四階より上の屋上だというのにその声ははっきりとここまで届いてきていた。
状況を何となく理解した私は、屋上のドアを後ろ手で閉めるとまたゆっくりと先輩の方へ歩いて行った。
「………先輩、何やってんの…」
「あー、おもしれぇ」
先輩はまだ段差に身を潜めながらクスクスと笑っていた。
ここなら別に身を乗り出さない限り下からは見えないと思うけど…
…ていうか、
「もしかして誰か狙った?」
「まさか」
「当てるつもりないのに落としたの?誰かの頭にでも当たってたらどうするつもりだったのよ」
「ちゃんと確認してから落としたから問題なし」
「……」
…いやいや、問題なくはないと思うんだけど。
この人らしいその言動に、私は呆れた様子で「はぁっ、」とため息を吐いた。
「てかパイプ椅子なんかどこにあったの」
「俺が自分用にずっと置いてたやつ」
“何のために落としたの”
そう聞こうと私が口を開きかけたその時、
「お前案外良い奴だな」
先輩は段差に隠れるために崩していた体勢をしっかりと座り直して、そのままあぐらをかくと私を見つめてそう言った。
「…どこが?」
「俺が落ちたと思って戻ってきたんだろ?」
「……」
そう……だと思う。
だってこれで本当にこの人が落ちたらそれって私が後押ししたようなもんだし、あれだけ背中を押しといてなんだけど後味悪いじゃない?
先輩は呑気に「てか俺が落ちたにしては音固くね?」とゲラゲラ笑っていた。
そんな先輩を黙って見つめていると、
「俺、お前のこと気に入った」
そう言って笑った先輩を見て、私は不思議な笑い方をする人だなと思った。
悪戯っぽいんだけどどこか憎めなくて、裏がありそうなのになさそうにも見えて、どれが本当なのかが全く分からない。
なのにやっぱり憎めない。
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