第44話

私は確かに先輩の言う通り“死んでもいい”と思っているのかもしれない。


自信を持って否定もできない。



でも、だからってそう簡単に死のうなんてことは思えない。




死にたい奴は勝手に死ねよ。



これが何よりも強く思う本心であることも事実だ。




「飛び降り自殺って“痛い”とか“怖い”ってイメージがあるけど実際は痛みも不安も恐怖もなくてそれどころかむしろ気持ちいいって説もあるらしいよ」


「……」


「あとここからでも真下はコンクリートだから死ねはすると思うけど、落ち方によっては大怪我で終わることも考えといた方がいいよ。生きてる上に大怪我して後遺症とか障害が残るとか最悪じゃん。…あ、あとここの鍵持ってることもバレちゃうし」


「……」


「じゃ、お達者で。“地獄にだけは行きませんように”」



先輩は依然こちらを見てはいなかったけれど、私は先輩に軽く右手を上げながらさっきの先輩の言葉を借りてそう言うと、そのまま屋上を出てドアを閉めた。



あの人に本気で死ぬ気があるかどうかは私には分からなかった。


でももし本当にその気があるなら私とあれこれ話す前にとっくに落ちてるんじゃないかと思えば、やっぱりその気はなかったんじゃないかとも思う。



まぁいいよ、どっちでも。



生きたい奴は生きればいいし、死にたい奴は死ねば———…





教室へ戻ろうと階段を二段ほど降りたその時だった。




———…ガシャァンッ…!!!




少し遠くから強い衝撃で何かが地面にぶつかるような音と共に、「きゃあっ!!!」と悲鳴に近いような声が聞こえてきた。





…え、





マジ…?




この状況でその大きな音があの先輩のものだと思わずにはいられなかった。



死にたい奴は死ねばいい。


勝手に死ねよ。





勝手、に———…






———…っ!!!!




私はすぐに振り返って降りていたその二段を一気に飛び上がった。



どっちだろう。


分からない。



でもさっき聞こえた悲鳴のような叫び声は絶対にこの校舎の真下から聞こえてきていた。




どうかそこにいて欲しい、と



願わずにはいられなかった。





ドアノブを掴んだ私は、迷いなく屋上へのドアを勢いよく開けた。




———…ガチャッ!!!




「———…っ、…」

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