第43話

ほら、こんな考え方だもん。



私にはやっぱり必要ないんだよ。




「お前だっていつかは誰かのこと好きになるだろ」


「好きになんてなったことない」


「今までなってねぇことが今後もならないってことにはなんねぇと思うけど」



やっぱりこの人はあぁ言えばこう言うタイプの人だ。



「いや、なんないよ。私は誰のことも好きになんてならない」


「何で分かんの?お前未来でも見えんの?」


そう言いながらこちらをみる先輩の口元は笑っていて、私のことをバカにしているようだった。


そんな先輩の様子に、私は思わず眉間にシワを寄せて先輩を睨んだ。



「…初対面なのに何なの」


「いや初対面とか今関係ねぇし」


「……」




何も言えなくなった私にフンと鼻で笑った先輩がウザすぎて、私は思わず左足で先輩のお尻を後ろから強めに蹴った。



その瞬間、先輩は少しだけ前にバランスを崩した。



「っ、ちょっ、あっぶね———…!!!お前何すんだよ!!!!」


「そのまま落ちれば良かったのに」


「はぁ!?」


怒る先輩を無視して、私は段差から降りると脱いだままだった靴を履いた。




「だって先輩さっき“ちょうど死にたいと思ってた”って言ったじゃん」


「……」


「死ぬのなんか簡単だよ?」


「…知ってる」


先輩のその小さな声はちゃんと聞こえたけれど、私はわざと無視をしてまた口を開いた。



「そこから一歩踏み出せばあとはもう何もしなくていいんだから。あとそれが“飛ぶ”じゃなくて“落ちる”だってことも、体感すれば一発で分かるよ」


「…だから知ってるって」





まただ。


この人の放つ空気や言葉が一気にズンと重くなった。


もう軽さなんてどこにも見当たらない。



何なの、本当…





「行きなよ、ほら」


「……」



先輩は何も言わず、またゆっくりと正面へ向き直った。



「おーい、どうしたのー?行けばー?」


「……」



数分前と今の私達では完全に立場が逆になっていた。

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