第42話

「イジメとか?」


「それも違う」


「じゃあー…金欠?」


「違う」


「カンニングバレた?」


「違うよ。てかその調子ならたぶん一生当たんないと思う」



“当たんない”も何も、そもそも私が死んでもいいと思っている理由って何なんだろう。


まぁそれが分かってたら私自身死んでもいいという自覚なんてとっくにあるはずで…



それにこの人自身が気付いているかどうかは分からないけれど、




「お前なんか苦しそうだな」




先輩の言葉は軽い中にもやっぱり重さがあるようだった。


軽いかと思えばいきなり重くなって、かと思えば今は軽そうに見えて実は重いって何?




「苦しそう?」


「おう。必死に生きてんのが分かるよ」



たった数分で、何がどうなってそうなったのか。


…というか、どうしてそれが分かったのか。



先輩の言うそれはあながち間違いでもなかった。




私は必死だ。




必死で、生きようとして生きている。







「…うん。そっちもね」



「あー…はぁ…まぁそうだな」




人間が同じ匂いのする人に一早く気付けるのはどうしてだろう。


“類は友を呼ぶ”ということわざもあるくらいだし、これはきっと勘違いではないと思う。




この出会いに意味があるかどうかは、分からない。



それから私達は屋上の段差に立ったまま、どちらも何も話さなかった。



何気なく真下を見下ろせば、さっきよりも一層“高い”という現実がよりはっきりと私に伝わってきた。



これは高い。



高すぎる…




私は今ここに立ち、何かを得ることができたんだろうか。


立って良かったって思えたのかな。



今のところどちらとも言えないような心境ではあるけれど、なぜか私の心は穏やかだった。


隣に似たような人がいるから?


自分だけじゃないって安心した?




これが吊橋効果ってやつ?



…いや、ちょっと違うか。






「お前さっき言ったよな」


「へっ?」


突然声をかけられて隣を見れば、先輩はこちらではなく正面を向いたままだった。



「愛とか恋がどうだとか形がどうだとか…知りたいとも思ってないとか」


「あぁ、うん」


「知らねぇのに知りたくないって意味分かんなくね?知ってみなきゃそれが知りたいことだったかどうかだって分かんねぇじゃん」


「あぁー…」



そういう考え方があったか。


それは思いもしなかったな。



この人らしい。


あぁ言えばこう言うみたいな?



私が言う何もかもを否定してきそうなこの人に、私は“同じ匂いがするからって合うとは限らないんだな”と思った。



だって先輩の言っていることは確かに一理あると思うけれど、だからって私はやっぱりそれを知ってみたいとは思えなかったから。







“知ってみなきゃそれが知りたいことだったかどうかだって分からない”



じゃあ、それが実際に知りたくないことだったらどうするの?


取り返しがつかなくなったら?


歯止めが効かなくなったら?





それともそのリスクを考える以上に愛とか恋って価値のあるものなの?

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