第41話
「…思ってないよ」
言った瞬間、返答がちょっと遅れたな、と思った。
それを先輩も見逃さなかったらしく、真っ直ぐに私を見つめながら「嘘つけ」と間髪入れずに言葉を返してきた。
「そういう奴は目を見ればすぐに分かるんだよ。それでも否定するならお前自身がそれにまだ気付いてねぇんだな」
私のことなんて何も知らないくせに、何を根拠にそこまで言い切るのか…
「偉そうに……」
私は独り言のようにポツリと呟いた。
否定したってきっとまたこの人はそれ以上にそうだと言ってくるだろうから、もう私は何も言わなかった。
それに、私が返答が遅れたのには多少なり意味はあったと思うから。
「失恋ねぇ…確かにお前可愛げねぇもんな、はははっ」
この人はいつの間に言葉の軽さを取り戻したんだろう。
「失礼…」
私のうんざりしたように吐いたその言葉にも、先輩は「はははっ」と軽く笑うだけだった。
「…でも失恋ってのはマジで違うよ」
「失恋“は”?」
「うん…失恋“は”」
実際私はここに乗り上げる前に、“飛び降りてしまったところでそれに気付いた時には死んでいるから後悔も何もあったもんじゃない”と思ったのは確かだし、それなら私が実は死んでも構わないと心のどこかで思っていたっておかしくはない。
先輩の言う通り、私自身がそれに気付いていないだけなのかもしれない。
…だから、否定の言葉がついつい遅れてしまったのかもしれない。
「死ぬ気はないけど死んでもいいと思える理由かぁ…」
私はもう完全に“死んでもいいと思っている人”になってしまったことに、我ながらそこまでの違和感がなくてちょっと驚いた。
そしてそれと同時に“やっぱりな”とどこか他人事のように思った。
私、あれだけお父さんの声に反発してきたのに本当は死んでもいいと思ってたんだ…
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