第40話

私はもう一度、その人に並ぶように段差に乗り上げた。


でもまた変なことを始められては困ると思った私は、さっきよりもほんの少しだけ距離をとった。



「それって愛とか恋とかってやつ?」


「は?」


「んなわけないよね。愛とか恋とかってやつなら死ねるもんね」


「何の話してんだよ、お前」



だって“あの人一人を残してなんて死ねない”なんて、そんなのお母さんの頭の中と全く真逆じゃん。






「それともやっぱりそれも愛とか恋とかの類?私が知らないだけで愛にはいろんな形がある、みたいな」


「……」


「別に否定はしないよ?私にはそのどっちも分からないことだから。ちなみに言うと知りたいとも思ってない」




今度は私の方が軽い空気を醸し出し始めたことに、先輩は何も言わずにまた正面へ向き直った。










「愛とか恋とか…俺も昨日まではそうだと思ってたけど、今はちょっとよく分かんねぇわ…」




なんか本当数分前とは別人みたいに落ち着いてるな、この人…





「お前は?」


正面を向いていたその人は、パッとこちらにまた顔を向けた。


「へ?」


「失恋して死のうとしたとか?くっだらねぇな」


「いやいや、まさか。何決めつけてんの?」


てか今の感じだと失恋して死にたいと思ったのは私じゃなくてそっちなんじゃないの?


くだらないのはどっちなんだか…



「てか話ちゃんと聞いてた?私死ぬ気なんてさらさらないんだってば」


「でも死んでもいいとは思ってんだろ」



その見透かすような言い方や目は、やっぱり数分前のこの人とは全くの別人みたいで私はそれを少しだけ怖いと思った。








この人は、単なるバカな先輩ってわけでもないのかもしれない。

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