第38話
「さっきも言ったけど“せーの”で行くからな?“の”で飛ぶんじゃなくて“の”の直後に飛べよ?タイミングずれるとか格好つかねぇから」
誰に格好つけようとしてんのよ…
てかこの茶番いつまで続けんの?
「…いい加減にしてよ、笑えないんだけど」
私はそう言って握られていた手を引き抜こうとしたけれど、先輩の力は結構強くて私のそれを許してはくれなかった。
それにきっと指を絡めるように握り直されたのは、そう簡単に私達の手が離れないようにするためだったんだろう。
…え、
「はいはい、それもこれも死ねばもう全部一緒!!」
本気…?
「ちょっ、ちょっと待って!?」
「もうお前さっきからうっせぇわ。行くぞ!!せーー…」
そう言った先輩の私の手を握る右手はこれまで以上に力強く大きく前後に振られていて、私は本気でヤバいと思って私の手を握る先輩のその右手首を空いていた右手でグッと掴んだ。
「マジで待っ」
「…のっ!!!!!」
「待ってってばっ———…!!!!」
私は引き抜こうとする左手に目一杯力を入れて先輩の手から自分の左手を引き抜くと、その勢いで段差から屋上のフロアの方へと飛び降りた。
先輩は動揺することなく、段差から降りた私を振り返って見ていた。
「はぁっ、はぁっ、…何考えてんのっ…!!??」
先輩はいまだに段差の上に立ったまま、私に離されたその右手をプラプラと揺らしていた。
「死にたいなら一人で死ねばいいじゃん!!勝手に人を道連れにしないでよ!!」
「…道連れって」
「私は死ぬ気なんか初めからなかった!!!あんたが勝手に勘違いしてただけなんだよっ…!!!」
「………ふぅん」
先輩は驚きもせず、また正面へと顔を向けた。
それもそうだろう。
やっぱりこの男は私に死ぬ気がないことをちゃんと分かっていた。
その証拠に、簡単に離れないようにと私達の手は指を絡めるように握られていただろうに、私が本気で手を離そうとした時この人は右手の力を一瞬抜いて逃げようとする私のそれを完全に後押ししていたから。
それからしばらくお互い何も発さずに、ただただよく分からない時間が流れた。
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