第25話
「バレないように気をつけろよ」と言う川口に今一度「ありがとう」とお礼を言って窓際である自分の席へ行けば、前の席にいた高校に入ってから仲良くなったシノちゃんがこちらを振り向いた。
「マリ、おはよー」
「おはよー」
「今日一限から小テストやるんだって。最悪ー」
「うわ、予告もなしにいきなり小テストとか陰湿ー」
シノちゃんとは特別仲が良いわけではない。
入学初日に前の席だったから何となく話して連絡先を交換して、それからたまに話をする程度だ。
プライベートで会ったことも一度もない。
でも遊ぼうと思えばきっとそれは可能だし、今より深く仲良くなろうと思えばなれるとも思う。
側から見れば、私はきっとごく普通の女子高生だ。
自分じゃその立ち位置にはなんだかしっくりこないけれど、なんだかんだ上手くやっている私はきっとそれなりに器用なんだと思う。
…と思う反面、さっきまで淫らに腰を振ってたくせにねと自分を蔑むようなことを考えたりもする。
演じているつもりはないけど、私は演じてしまっているのかもしれない。
“ごく普通の女子高生”を。
だとすれば、あの叔父さんのパソコンのフォルダの中にいた女優さん達と私とでは一体何が違うというんだろうか。
誰にも答えなんて分からないことを頭の中に浮かべては“考えるだけ無駄だ”とすぐにそれを投げ捨てる。
これが私のいつものやり方だ。
その日の昼休み、私は川口に貰った鍵を握りしめて早速別棟へと向かった。
私が別棟の屋上に行きたかった理由は私の中では明確だったけれど、はたしてこの行動が目的や理由に対して理にかなったものであるかどうかはよく分からない。
私は、お父さんとお母さんの最後に見た景色を知りたかった。
もちろんあの二人はこの学校の別棟の屋上から飛び降りたわけではないし、私が求めているその景色はこれから見られるであろう景色とは確実に一致しない。
共通点はただ四階であるということだけだった。
たったそれだけで、私はそこに立ちたいと思った。
…なんでだろうね。
自分でもよく分からない。
でもそれならきっと、私はその景色を見たかったわけではなくてその“高さ”を体感してみたかったのだろう。
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