第24話

「うん?」


「お前に良いもんやるよ」


そう言って川口がズボンのポケットから取り出したのは小さな鍵だった。



「…え、これって…」


「別棟の屋上の鍵。お前前から欲しがってたろ」


「うっそ!!どうやって手に入れたの!?」



私が差し出された鍵を受け取りつつ川口を見れば、入学してからずっと私が屋上に行きたがっていたことを知っていた川口は何とも得意げな顔で私を見ていた。



「実は今の生徒会長俺の従兄弟」


「従兄弟…?」


「おう。そいつに頼んであそこの鍵持ち出してもらったんだよ」


「あぁ、なるほど…えっ、てかそれバレたらヤバくない!?」


「バカ、これはその合鍵」



川口はそう言いながら私の手にあったその鍵をトントンとつついた。



あぁ、なんだ…そうなんだ…


てことは、これは私が貰っていいってことだよね?




すごい…




私がいまだに信じられなくて感動しながらその鍵を見つめていると、川口は「すげぇだろ」とまた得意げな顔で口を開いた。



「うん…びっくり…」


「んでお前はなんでこんなもんが欲しかったんだ?」


「いや理由とかないけど……何となく?」


「ふーん………そっか」


川口は特にその理由を掘り下げることなくそう言うと、私の頭に右手を乗せてポンポンと優しく叩いた。





こんな私達のことを付き合っているんだと思っている人も少なくはない。


それをちゃんと否定したって疑う人はいると思うけれど、これは単純なことだ。



セックスを介してしまえばその信頼度や距離は異常に深く近くなってしまう。



仲良くなって約二年半程度。


関係を持つようになってからは約四ヶ月。



この四ヶ月は私と川口に確かな絆を生んでいた。



川口がどうかは知らないけれど私は川口としかシたことがないんだから尚更だ。


それに他に女がいたとしても川口だって私のことは近い人間だと思っていると思う。



だからきっと川口は私がこの鍵を欲しがった理由をわざわざ掘り下げたりはしなかったんだろうし、従兄弟に頼んで持ち出してもらってわざわざ合鍵を作るまでの行動に移してくれたのも、自慢じゃないけどきっと相手が私だったからだ。






だって屋上の鍵だよ?


しかも別棟だよ?



そんなところにわざわざ行きたい理由がないわけないでしょ。

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