第22話
再び仰向けになった川口に覆い被さるように私も体を前に倒すと、私はそのまま川口の左の耳に唇を寄せた。
「…自分で動いて」
私のこれは最後の最後で自らの役目を放棄したわけではない。
それはもちろん川口もちゃんと分かっていた。
「マリ…お前本当よく分かってんな」
川口はそう言うと、私のお尻を掴んで下から思うがままに突き始めた。
それと同時に、私は川口の左耳を唾液いっぱいの舌で舐めた。
耳たぶを軽く吸ってみたり、耳の裏からその形を確かめるようになぞってみたり。
そんな私の後頭部を、川口は腰を振りながらも左手で優しく撫でた。
私は川口の弱い部分を熟知している。
どう動けば気持ち良いのかとか、
イキそうになった時の腰のスピードとか、
どこをどう舐めれば声が漏れるのかとかまでも。
例えばそれは今私が舐め回している左耳だけじゃなくて、左の乳首もそうだった。
それから左の鎖骨と左の輪郭の骨の下あたりと…
もうもはやそれは箇所ではなく左ならどこでも感じるんじゃないかと思い私が冗談混じりにそう聞けば、川口は真面目な顔で「それは違うぞ」と本気の否定をした。
「はぁっ、はぁっ、…っ、…イクっ…」
川口の余裕のないその声に、私は依然川口の左耳で舌を執拗に動かしながら「んっ」と短く返事をした。
それからすぐに川口がイクと、余韻に浸る余裕もなく私達はそそくさと乱れた着衣を戻して体育倉庫を後にした。
そんな切り替えの潔さに、私は自分でも笑いそうになった。
その笑いは一応顔には出さなかったつもりだったけれど川口にはバレていたようで、体育館をそそくさと歩いていた時に川口は「ん?どした?」と不思議そうな顔で私に尋ねてきた。
そんな何事もなかったかのような態度の川口にすらも笑ってしまいそうになったけれど、私は今度こそその笑いをちゃんと隠して「何でもない」と答えた。
体育館を出ると一限が体育の生徒達がもうすぐそこまで来ていて、私達は二人で目を見合わせて安堵の息を漏らした。
誰かに見られたらと思うとゾッとする。
でも私が見られたくなかったのは何故かセックス現場よりも必死で川口の左耳を舐めている自分のその姿の方だった。
あれは私達本人からすればエロくて刺激のある行為かもしれないけれど、さすがに誰かに見られるのはちょっと訳が違う。
だってさ、男に覆い被さって耳舐めてんだよ?
それもかなり必死にだよ?
さすがに滑稽すぎるよ。
「お前さ、こんなギリギリ攻めんなや」
行き交う生徒とすれ違いながら自分達の教室を目指す中、川口が私に口元を緩ませながらそう言った。
「それ言うならもっといい場所指定してよ」
マットがあるのは嬉しいけど、やっぱりあの場所はいつ誰が来るか分からないから危険だ。
さっきはホームルームで生徒はみんな確実に教室にいたから良かったものの、先生だったら誰が来てもおかしくはなかった。
それが分かっていたってさっきの私達は止まらなかったとは思うんだけど…
でもだからこそ、始まったら止められないからこそその場所は安全じゃなきゃならない。
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