第15話

「一旦それ置け」


“一旦”が多いな…


私が言われるがままに持っていた漫画を今度はしっかり閉じて床に置けば、川口も依然私の頭に乗せていた漫画を私が今置いた漫画の上に放った。



バンッと音を立てて床に落ちたそれにチラッと目をやれば川口が放ったそれは私が今読んでいた漫画の次の巻で、やっぱり読みたいと頭の中はもう漫画のことでまたいっぱいになっていた。



「おいこら」



そんな思いが川口にも伝わったらしく、私が慌てて川口にまた目をやれば少し呆れるような目でこちらを見ていた。



「はぁ…あとでいくらでも読ませてやるって言ってんだろ…なんなら貸してやるから」


「うん、分かった!なんかごめん…で、何?」



これはもうさっさと川口の話を聞いてしまった方が早いと思い、私は今度こそしっかりと川口へ意識を集中させて話を聞く態勢に入った。





でも、川口の口から出た言葉はあんなにもさっきまで夢中だった漫画のことを一瞬で忘れさせてしまうくらいに私には衝撃的だった。








「俺、お前のこと好きなんだけど」








川口は依然ベッドの上にいて、床に座る私を真っ直ぐに見つめていた。




“お前のこと好きなんだけど”…



好き…好き…





えっとー…





「……え?」


「え?じゃねぇよ。だから好きだって言ってんだろ」





好きって何?



愛とか恋とか、そういう類のもの?




それってお父さんがお母さんを思っていた気持ちとかお母さんがお父さんを思っていた気持ちのこと?



それなら私には理解なんて不可能だ。



「ごめん…私そういうのよく分かんなくて…」


「そうか……」




正直に言うと分からないんじゃなく、私は分かりたくもなかったんだと思う。



でもただ、“知りたい”とは思った。




「ねぇ、好きってどんな感じ?」




その気持ちに共感なんて死んでもしたくはないけれど、理解はしておきたい。



どれだけくだらないことであの二人が死を選んでしまったのか。



“弱い女が死んでその後を追うように男も死んだ”という事実だけじゃなく、きっともっと深い部分からあの二人の全てはくだらなかったんだと思うから。




本当に本当に、我が両親ながらバカみたいだ。

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