第9話

歯磨きを終えてもう一度キッチンへ顔を出せば、叔母さんは洗った食器を一つ一つ丁寧に真っ白な布巾で拭きあげていた。





そういえば叔母さんはいつご飯を食べているんだろう…





「いってきます」


「いってらっしゃい」




いつものようにそう言葉を交わすと、私はすぐに玄関で靴を履いて家を出て電車に乗るために小走りで駅を目指した。





駅は時間的に通勤通学ラッシュということもあり、とても混んでいた。



いつものことだからまぁ慣れたけど。





電車の隅に立って窓から流れる景色を見ていれば、私は今日見た夢が頭の中に蘇った。



夢といってもこれは過去の記憶の映像を寝ている時に頭の中に反映させているだけの、私には見覚えのあるものばかりだ。


はたして人間にそんなことができるのかは謎だけど、きっとできるんだろう。


だって私の夢は間違いなく私の昔の記憶だし。





場面は違えど、私自身から見たその夢の中の景色はほとんど変わらない。


家へと歩く私の前を、お父さんとお母さんが楽しそうに手を繋いで歩く。



実際の小さい頃の私の景色はいつもそれだった。



私は二人の隣ではなく、いつも二人の後ろにいた。



私だって手を繋ぎたかった。


ドラマとかでよくあるような、お父さんとお母さんに両手を引かれて歩いてみたかった。




でもそんな願いは叶わないまま二人は死んだ。






夢の中のお父さんとお母さん、すごく幸せそうだったな…



夢というか記憶というか。





でもその幸せは私が二人の間にいないからこそ存在するものだったんだろう。








私が服を汚したりしてお母さんが私に構えば、お父さんはちょっとイラついた顔をした。


私が高いところのものが取れなくてお父さんに頼めば、お母さんは目にちょっとの嫉妬を滲ませた。





その“ちょっと”が、私からすればなんとも絶妙で文句も言えなければ見て見ぬ振りもできずにただただ自分は二人にとって邪魔なんじゃないかと思えて仕方がなかった。





そしてそれは間違いなくそうだった。





二人はきっと二人きりになりたかったんだ。




















だから、私を残して死んだんだ。

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