第8話

「…見たって?何を?何も見てないけど」


「いや、あ」


「てか叔父さん、私今課題やってる最中なんだけど。私夏休みの課題はさっさと済ませたい派」


「…いや、うん…見てないならいいんだ。ごめんね、邪魔して」


「うん」



叔父さんは私の返事を聞くと「ご飯食べたの?」と聞いてきて、それにも私が背を向けたまま「食べたよ」と答えると「課題頑張ってね」と言ってゆっくりとドアを閉めた。



それからすぐに、遠ざかるスリッパの足音が聞こえた。





叔父さんは何で部屋に入ったのが私だと分かったんだろう。


叔母さんには入るなって言ってあるのかな…?




てかやっぱり分かんない。


そもそも何でバレたの?


しかもパソコンってピンポイントで…



私が触ったのなんてあの回転するイスかマウスくらいしか…



あれらに定位置でもあったのだろうか。






その翌日何にも触らないようにあの書斎に入ってパソコンの電源を入れれば、そこにはしっかりとロックがかけられていた。


それから数日経つと、叔父さんは私のためにパソコンを買った。


ロックをかけたとはいえ、きっともう自分の知らない間に書斎に入られてパソコンを触られては困るからだろう。
















———…それ以来、私は叔父さんの優しさや存在そのものが少し怖い。



だからもう私にとって叔母さんが専業主婦であることは何よりも有り難くなってしまった。



叔母さんには悪いけど、あんなものを見てしまった以上今はまだ自由に生きてほしいなんて思えない。


だってもし叔父さんとこの家で二人になるようなことがあれば、私は私を守れるか分からない。



てか、守らなきゃならないような状況になるのはヤバすぎるでしょ。




シンプルに、怖い。




そうなってしまえば一年前に私が一人になった時、誰よりも真っ先に私を引き取ると名乗り出た叔父さんの真意だって疑いたくもなる。



私の記憶にまだ残るあのフォルダの中で淫らに制服を乱すあの女子高生を自分に置き換えれば、無意識に背中がぞわぞわした。


















叔父さんが家を出て行くと同時に、叔母さんがキッチンへ戻ってきた。


叔父さんの食べたものを早速片付け始めた叔母さんを気にすることなく呑気にカフェオレを飲んでいると、ポケットの中の携帯がブブッと一瞬震えた。




コーヒーカップ片手に携帯を確認すると、





『体育倉庫にいる』





そのメールは何ともシンプルなものだった。




『わかった』と返信をすると、私はすぐに立ち上がって洗い物をする叔母さんへ顔を向けた。




「叔母さん、ごちそうさま。学校行ってくる」


「歯磨きはしなさいね」


「うん、わかってるよ」




叔母さんはやっぱりこっちを見なかったけれど、今となってはその存在が私にはなくてはならない存在である以上そんな態度に腹が立つことなんて全くなかった。

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