第3話
着替えを済ませて顔を洗い、叔父さんが待っているであろうリビングへ向かうとその部屋全体にはコーヒーの匂いが立ち込めていた。
でもさすがに私も叔父さんと二人暮らしというわけではなくて、
「おはよう、叔母さん」
「…おはよう」
私の挨拶に、キッチンにいた叔母さんは特別高いトーンでも低いトーンでもないような声で返事をした。
ただ、顔は上げなかった。
これもいつものことだから、私は驚くこともなければいちいちショックを受けることもない。
叔母さんは私のことが嫌いだ。
一年前、私がこの家にお世話になることに決まったその時はまだ私は叔母さんとは顔を合わせていなかった。
その時から叔父さんの私に対する態度は今と全く変わらない感じだったから、私はてっきり叔父さん夫婦に歓迎されているんだとばかり思っていたけれど、実際のところはそういうわけでもなかった。
そりゃあもちろん初めは叔父さんが私に異常に甘いから叔母さんの態度が素っ気なく思えるだけなのかとも思ったけれど、どうやらそうではないらしい。
一年も経てば、叔母さんのその態度の根源となる心情は嫌でも私に伝わってきた。
「さ、マリ、早く座ってご飯を食べよう」
「…うん」
私が座る位置にはちょうどいい具合に焼かれたトーストとサラダとフルーツとカフェオレが用意されていた。
でも叔父さんのこの態度だけが私に“歓迎されているんだ”と思わせていたわけではなくて、叔父さんと叔母さんはそこそこの歳なのに子どもがいない。
作らなかったのかできなかったのか、はたまた作れなかったのかは謎だけれど、だからきっと叔父さん夫婦は私を実の娘のように扱いたいんじゃないかな、…とか、期待なのか願望なのかもよく分からない思いを抱きながら私はここへ来た。
だから、初日は本当に驚いた。
叔父さんが叔母さんに私を紹介した時一瞬こちらに目をやったものの、叔母さんは「はじめまして」と言ったっきりすぐに目を逸らしてしまったから。
それ以来、叔母さんとはこれまで目が合ったことは一度もない。
私はきっと今でも邪魔者だ。
「マリ、学校には慣れた?」
「まぁまぁかな」
「まだ入学して半年だもんね」
「うん。でもうちの中学から来てる子も多いから割と知ってる顔ばっかだよ」
「そっか」
私達の会話に一切入ろうとしない叔母さんは、そんな私達の会話には興味がないのかいつの間にかキッチンにはいなくなっていた。
これもいつものことだ。
きっとゴミ出しにでも行ったのだろう。
そんな叔母さんを叔父さんは特に気にしている様子はなかった。
「学校楽しい?」
「まぁまぁかな」
だってこの人は今私との会話に夢中だ。
学費を払ってもらっておいて何様だよと思われそうな私のその反応にも、叔父さんはニコニコしながら「そっか」と言ってコーヒーを啜った。
きっと叔母さんが今キッチンにいないことになんて気付きもしていないだろう。
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