第2話
「でも夢を見るってことはきっと眠りが浅いんだね。たぶん疲れも十分には取れてな———…」
「今何時?」
叔父さんが喋りながら私の頭に手を伸ばそうとしていたのが分かって、私はその手ごと拒否するように口を開いた。
その言葉だけの拒否は、ちゃんと役目を果たしていた。
「…もう八時を過ぎてるよ」
叔父さんは中途半端なところにあった手をスッと引いた。
「げっ」
「挨拶くらいしようね」
私の反応を無視するようにそう言った叔父さんに私が叔父さんの様子を伺うようにゆっくり顔を上げると、叔父さんは優しく笑いながら私を見つめていた。
怒るわけないか…
今の叔父さんからすれば目の前にいるこの“生身の女子高生”はきっと何にも変え難い存在だと思うし。
「…おはよう、叔父さん」
「うん、おはよう」
叔父さんは私の挨拶に改めて挨拶をすると、さっき触り損ねた私の頭に手を伸ばして優しくそこを撫でた。
「……」
「ご飯食べるから着替えて降りておいで」
「…うん」
私が素直に返事をすると、叔父さんはすぐに立ち上がって部屋を出て行った。
叔父さん…
そう、あの人は私の叔父だ。
父でも兄でもない、関係性で言えば私の母の兄らしいからそこまで遠くはないけれど、私の体感としてみればあの人はただの他人の男だ。
私がそう思うのも無理はないと思う。
私がこの家に来たのは一年前で、それまでは一度たりとも会ったことはなかったんだから。
叔父さん曰く赤ちゃんの時に一度会ったことがあるらしいんだけど、私本人がそんなのを覚えているわけはないし十五、六年も前のたった一度の接触でいきなり今心を開くなんて無理な話だ。
だって私今高校生よ?
お年頃の娘よ?
もうれっきとした女だよ?
それにまぁ心を開けない理由は他にも明確にありはするんだけど…
だから、さっきみたいにやたらと距離を詰めてくる叔父さんとの共同生活は私からすればそこそこの苦行でしかない。
とはいえ一年前にいきなり一人になった私が今何不自由なく生きていられるのは間違いなく叔父さんのおかげだ。
この部屋だって元は叔父さんの書斎にしていたらしいし、通っている高校の学費諸々だってもちろん叔父さんが払ってくれている。
だからこそ“部屋に入ってこないで”とか“触らないで”とかの私の自分本位な思いを口にしていいものなのかがよく分からなくて、私はいつも躊躇ってしまう。
その躊躇いこそが今のこの日常を許してしまったってのもあるとは思うんだけど…
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