第97話
膝にセイがいることにもすっかり慣れて私が背中をプレハブに預けようと肩の力を抜いたその時、
静かなこの場所にさっき聞いたセイの足音と同じようなサクッ、サクッという土を踏む小さな音が聞こえた。
———…サクッ、サクッ、サクッ…
誰かいるというより、今まさに誰かがこちらへ来ている。
静かに慌てながら顔だけを左右に動かしていた私は、私の伸ばした足元にさっきセイが煙草の吸い殻を入れたパンの袋が目に入って思わず固まった。
———…サクッ、サクッ、サクッ…
今はまだ授業中のはずだから、その足音の主が生徒であることはまずない。
先生か、職員か、購買のおばちゃんか、…
思いつくだけでも全てがアウトだった。
煙草の吸い殻…
授業をサボっていることなんかよりも、あれを見られる方が確実にまずい。
それにセイのズボンのポケットにはまさにその銘柄の煙草がライターと一緒に入っている。
総合的に見るとこれって謹慎案件?
最悪退学もあり得る?
いや、もう絶対ダメっ…!!
なんとかセイを起こさないようにそれを取ろうと前屈みになって必死に手を伸ばしてみたけれど、その袋はセイが膝にいるこんな状態で手が届くほど近い距離ではなかった。
どうしよう…煙草…煙草っ…!!!
「…サチ、」
囁くようなその声に、今もなお前屈みになって右手を伸ばしていた私はハッとして目の前にいるセイを見た。
セイとの顔の距離は、私のほんの少し垂れる横髪がセイの頬に触れてしまうほどに近かった。
「っ、セ」
「しっ」
セイは小さくそう言いながら、パッと左手で私の口元を塞いで私の言葉を遮った。
これ、は…
依然右手を伸ばしたまま固まり目だけをキョロキョロと泳がす私に、セイはまた小さな声で「大丈夫やから」と言った。
近い———…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます