第98話

セイは焦る私を安心させたいのか、その数センチの距離から静かにじっと私の目を見つめていた。


私はというと、なぜかその目を逸らしてはいけない気がしてただただ静かに見つめ返していた。




———…サクッ、サクッ…ガラガラガラッ…



足音がいよいよ近くなったかと思うと背後にあるプレハブの開く音が聞こえて、私はぐっと肩に力を入れた。



心臓は激しく暴れ始めている。


そこにいる人がこっちに来たらどうしよう。


それが誰でもきっと見逃してはくれない。



でも今は何より、この近さが———…



———…ガラガラガラッ…



しばらくしてプレハブのドアが閉められる音が聞こえたかと思うと、すぐにサクッ、サクッというゆっくりと遠ざかる足音が聞こえた。



行った…



「…行ったな?」


私はそれに小さく頷いた。


「はぁ…危なかった」


「……」


セイが私の口元から左手を引いてもなお、私は前屈みのまま動くことができなかった。



「ん?サチ?もうええで?」



その言葉にハッとした私はなんなら右手だっていまだにぐっと前に伸ばしたままで、慌てて上体を引けばセイは「よっ」と言いながら軽く勢いをつけて起き上がり私の膝の上からいなくなった。



さっきまでずっと頭が乗ってたせいか、足がなんだかすごく軽い…



「うわ、俺三十分近く膝借りてたんや」


その言葉にそちらを見ればセイはすでに私の右隣に並ぶように体の向きを変えていて、手にはいつのまにか携帯が持たれていた。


「ケツ痛くない?」


「うん、平気」


「サチずっと起きてたん?」


「うん」


「俺の顔見てたんやろ?変態〜」


ふざけるようにそんなことを言ったセイは、またさっきと同じように左肩を私の右肩に軽くぶつけた。

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