第95話
「ははっ、なんかこれカップルっぽいなー」
「うん、そうだね。真下にセイを見たの初めて」
「俺だってこんな真上にサチおるんとか初めてやわ」
きっとセイとこんなに顔を近付けたのはこれが初めてだ。
それでもその近さは気にならないし、頭の重さだって悪いものじゃなかった。
偽物でも彼氏は彼氏か…
「まつ毛綺麗やなぁ…」
私をじっと見つめながら、セイはまるで独り言かのようにそんなことを呟いた。
「綺麗じゃないよ。何もしてないもん。それよりセイは鼻筋が綺麗」
そんな私の言葉に、セイは何か言うわけでもなくフッと笑って軽く目を伏せた。
「え、何?本当に思ってるよ?」
「鼻筋が綺麗とか言われたことないて」
「でも本当に」
「あー、マジで寝そう」
セイは私の言葉を遮ると、口元を緩ませたままそっと目を閉じた。
「…うん、いいよ。授業が終わったら起こしてあげる」
「六限もサボるんやろ?ケツ痛なんで?」
「平気」
「……じゃあ五分だけ」
「…うん」
眠くなっているセイの邪魔をしないよう、私は最後の返事をできるだけ小さな声で発した。
それからセイは何も言わなくなり、私も黙ったままそんなセイの寝顔をひたすら見つめた。
セイもまつ毛は長い方だと思うけどな。
でもやっぱりセイは男だなぁ…
頭はそれなりの重みがあるし、首から肩にかけても全体的に骨っぽくてゴツゴツしている。
髪は———…
そう思うのとほぼ同時に伸ばした左手は、遠慮もなくセイの髪の毛に優しく潜り込むように深いところまで侵入していた。
柔らかい…
それから奥は真っ黒だから、やっぱり毛先の焦茶色は地毛ではないみたいだ。
ゆっくりくしゃくしゃとその質感を確かめるかのように左手を動かす私は、
「……サチ、」
まだ起きていたらしいセイに、特に驚くことも悪びれることもなく「うん?」と言葉を返した。
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