第92話
「やっぱサチの弁当は美味いなぁ」
少し心配していたお弁当の中身は、お母さんの詰め方が上手だからなのか何も問題はなかった。
「それで言うならうちのお母さんのだけどね。作ったの私じゃないし」
「細かいって。てかサチっていっつもどこで弁当食うてんの?」
「特に場所は決めてないよ。とりあえず誰も来なさそうなところ」
“とりあえず誰も来なさそうなところ”で言うならば、校内で思いつくだけでもいくつか候補はある。
だからその中で一つ選んでしまうのもきっと悪くはない。
でももし特定の場所を決めたら、誰かに見つかった時に私は少なくとも嫌な思いをすることになる。
だから、決めない。
適当にフラフラとその日その時ここだと思った場所で食べてしまえばいい。
私にとって昼休みなんて、お弁当さえ食べてしまえばどうせまたいつものように適当に校内を歩いて時間を潰すだけの時間に過ぎないんだから。
「それなら明日からはここ使ったら?誰も来おへんから」
「誰も来ないって何で分かるの?」
「たまーに煙草吸いに来てんねん」
そう言ったセイは自分をフォローするかのように「最近になってやで?」と言葉を付け足した。
「じゃあ…気が向いたらそうする」
「うん、それでええよ」
私には選択肢がある。
それを選ぶ権利もある。
そしてそれに口を出す権利は誰にもない。
私は自分が思うよりもうんと自由らしい。
その時、ふわっと柔らかな風が私達のいるこの場所を静かに横切った。
隣で私が食べるはずだったお弁当を美味しそうに食べてくれるセイの髪は、やっぱりとても綺麗な焦げ茶色だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます