第90話

「付き合ってるから来たの?」


「今?」


「それもだし、お昼ご飯」


私はそう言いながら、セイの右側に置かれたパンを指差した。


「どっちもそんなんやないけど。飯は何となく今日はサチと食う気分やっただけやし、追いかけたんは…まぁあのまま放置もできんやん?なんか俺のせいな気ぃするし」


「そんなことないよ…」


私が口にしたその言葉はとても小さくて、頼りない上になんだかとても情けなかった。


ついさっきの出来事をセイのせいだなんて思っていないのは本当だし、そうじゃないと言い切ることもできる。


だってあれは私が———…



「嫌なら断ってもええんやで?」



ぼんやりとセイの持つ煙草から上がる煙を見つめていた私がセイのその言葉にそちらを見ると、セイは優しく笑いながら私を見つめていた。



「これと言った理由なんかなくても嫌なら嫌でええやん。誰だって一人になりたい時はあるやろ。俺だって別に気が向いたから来てるだけで、常に一緒におろうとしとるわけではないから」


「……」


「せやから嫌なら嫌って言いや?」


「…うん」


「あ、でも学校の行き帰りはできるだけ一緒にしよな?無理な日は全然かまんけど」


「…うん、わかった」


まだ少しぎこちなさの残る返事を繰り返す私に、いつも通りなセイは「ははっ」と小さく笑いながら左肩を私の右肩にとんっとぶつけた。



漠然とだけど、今の私にセイがいて本当に良かったと思う。



「あー、腹減った」


そう言いながら吸っていた煙草を地面のコンクリートに押し付けたセイは、すぐに二本あるお茶のうちの一本を私のそばに置いた。



「くれるの?」


「おう。だって飯食うのに飲みもんないとキツいやん。昨日何もないままサチの弁当食った時死ぬかと思たし」


「それはごめんなさい」


「ははっ」


「でも今日はちゃんと水筒も持ってきた」


「ええから貰っとき」


「うん。じゃあ、ありがとう」


「ん」


教室では持っていなかったこのお茶は、ここに来る途中で買ってきてくれたんだろうか。

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