第86話
「放っといていいって。あんなのいつものことだし」
「は?いつも?いやいや、おかしいやろ。あれやりたいなら自分の机でやればええやん。何でサチの机やねん。気分悪いわ」
「私は悪くないから」
「だから俺が悪いんやて」
そう言うと同時に教室に入ろうと歩き始めたセイに、私は慌ててその腕を掴んだ。
「待って!何する気!?」
「何って、別に降りろって言うだけやん。そこサチの机やからって」
「そんなこと言わなくていい!」
「は?何で?午後からもあの机で授業受けるのに嫌じゃないん?」
「っ、…」
「大丈夫やて。サチはここおって。俺が一言言うて来るから」
「だからいいって!もう本当にっ、」
———…ダンッ!!!
一際大きなその音に私とセイがパッとそちらに顔を向ければ、私の机に乗り上げていたその男子は床へと降り立ちこちらを見ていた。
今は昼休みだというのに、教室はいつからこんなに静かになっていたんだろう。
「…お前最近調子乗り過ぎなんだよ」
そう言った男子は間違いなく私を見ていた。
「は?乗ってへんけど?」
なのにそう答えたのはセイで、それは自分に言われたと思ってそう答えたのか私が乗っていないという意味でそう言ったのかはよく分からなかった。
「こんな小細工までしてよぉ」
その男子はセイを気にすることなくそう言って私の机の脚をガンッ!と強めに蹴った。
その時、教室の空気がピリついた気がした。
「…いや、待って…お前さっきから何してんの?」
私の目の前で背を向けるセイのその声は私の聞いたことのない雰囲気のもので、私は妙な胸騒ぎがした。
「てかガタついとるん直すのの何が調子乗ってるになんねん。お前アホ?」
セイは机に取り付けたキャップのことだと思っているようだけれど、おそらくその男子の言う“小細工”はキャップそのものではなく私が取られないようにとベタ塗りした接着剤のことだ。
「お前知らないの?」
「何が?」
「この女のこと」
———…待って、
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