第85話
「ちょうど今サチのとこ行こうとしてたんよ。あっぶねー。もうちょいですれ違うとこやったなぁ?てかどこ行くん?」
「あ、えっと…お弁当食べるから」
約四時間ぶりに会うセイは、なんだかとても久しぶりな感覚がした。
「なら一緒に食お」
「えっ、いや、いいよ」
「は?何で?俺そのつもりでこっちの教室来たのに」
セイはそう言いながら、ずっと右手に持っていたらしいパンを顔の横へと持ってきた。
「誰かと約束してんの?」
「ううん、一人」
「一人がええん?」
「いや…違うけど…」
「…違うけど何?」
「……」
「何かあるなら言えよ」
「……」
教室で気軽にご飯が食べられたらどれだけ楽なんだろう。
お腹も空いているだろうし、わざわざ教室からできるだけ離れた人のいない場所に移動させるのはなんだか申し訳ない。
どうやって断ろうかと考えていた私だったけれど、私の言葉を待つセイを目の前にチラッと今出てきたばかりの自分の教室に目をやれば、私の机の上に同じクラスのある男子が乗り上げているのが目に入って私は思わず固まった。
ダンッ!ダンッ!と強く踏みつけているのは、まだそばにいる私への当てつけだろう。
「…移動してもいい?」
遠慮もなく上履きで私の机に乗り上げているその男子を見ながら私が小さくそう言えば、それに釣られるようにセイも「ん?」と言いながらそちらに顔を向けた。
それからしばらく、セイは何も言わなかった。
…あぁ、見られた。
死ぬほど惨めだ。
別に私が自分のクラスからどんな扱いを受けているかなんてセイに知られたところでどうってことはないけれど、それを見て可哀想だと思われるのはなんだかやるせない気持ちに押し潰されそうになる。
でも見られてしまったのならば、せめてできるだけ早くここから離れてしまいたい。
「だから場所。またこの前みたいに人がいないところに行こうよ」
少し慌ててセイに向き直ってそう言った私だけれど、セイは「あー…」と言いながらもやっぱり私の席を見つめていた。
「もう行こう」
「うん、行く行く。でもちょい待って」
「いや、でもご飯食べる時間なくなるし、」
「そんなことよりアイツ、人の机で何してんの?」
セイは依然真っ直ぐに私の席を見つめたまま、ゆっくりそちらを指差した。
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