第84話

教室に近付けば近付くほどにその不安は大きくなって、気付けば私の足は無意識に小走りになっていた。




結果から言えば、私の机は三つ残っていた脚キャップのうちの一つがまたどこかへ消えていた。


それを見た私を見る周りはガヤガヤと楽しそうにしていたけれど、私は心の底からホッとした。


はぁ…よかった…半分は残せた…




その日の三限の体育の時、途中で私はトイレに行きたいと言って授業を抜けた。


その時教室に行って、なくなった脚キャップのところに新たなそれを嵌め込んで机の高さを調整し、もう二度と外されぬよう四つともベタベタに接着剤を塗りたくった。


不必要なまでに塗ったからそのまま放置していたら机と床がくっついてしまいそうだったから、私はその時間机を逆さまにしたまま体育へと戻った。



三限を終えて教室に戻ればもう人の手ではどうすることもできないくらいに脚キャップはガチガチに固まっていて、我ながら最高の出来栄えだった。


よしよし。“これで一件落着やな”。



昨日セイに言われた言葉をそっくりそのまま頭で繰り返すと同時に、四限の授業が始まった。



窓を開ければ、少しずつではあるものの暑さの和らぎ始めた風がまた私の髪を静かに、そっと揺らした。


先生にバレないように膝の上で携帯を確認してみれば、昨日ピン留めしたセイからは朝以降新しいメッセージは来ていなかった。



五組って今何の授業なんだろう。


セイってどんな感じで授業受けるの?


ノートとか取ってるイメージ全くないんだけどな。



ぼんやりと先生の話を聞いているだけで、気付けば四限もあっさりと終わった。


もうお昼か。


時間の流れは一定なはずなのに、なぜか数日前よりも進むスピードが早い気がする。


いつものように教室から出ようとお弁当と水筒を持って廊下に出たその時、ちょうど真正面から誰かにぶつかりそうになって私は慌てて足を止めた。


「っ、すいませ」


「おう、サチ!」


「え…?」


聞き覚えのあるその声に顔を上げれば、目の前にいたのはセイだった。

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