第82話

「どうしたぁ?」


「私の机がガタついてて…アジャスターの付いた脚キャップもらえますか」


「え?あー…よし、まぁとりあえず職員室行くか」


担任のその反応を見て、この人は私が何のことを言っているのか分かっていないなと思った。


それからすぐにまた私に背を向けるように反転して歩き始めた担任に、私もすぐにその後ろをついて歩き始めた。



「あと接着剤も貸して欲しいです」


「接着剤?」


「キャップ、普通に嵌めるだけじゃ取られちゃうんで」


「ははは、取られるって何だよ〜」


「……」


今まで私は、無駄にいい先生になろうとしているこの担任に相談なんてしたら返って大事にされそうで避けてきたところがある。


もし“私、イジメられてます”なんて言おうものならばホームルームを使ってそれについて話し合いの場を作ったりなんてことをしそうだし、みんなに顔を伏せさせて心当たりのある人に手を上げさせたりなんてベタなことも本気でやりそうだ。



でも自分の中の何かが変わりそうな今、試す価値はあるかもしれない。



「先生、私取られたんです」


「え?」


「脚キャップ。机の全部の脚に付けてたのに、そのうちの一つを誰かに取られました」


「誰かってそんな…同じクラスの仲間に悪者を作ろうとする考え方はよくないな」


「でも本当なんです。私がそれを付けたのは昨日の放課後なのに、今朝学校に来たら無かったんですよ?しかも四つあるうちの一つだけ。そんなの故意だとしか思えません」


「あー…」


「たぶん私が万引きしてたって先生に言った人です」


机にある落書きのことには触れなかった。


そこまで本格的な相談をするつもりはない。


…というより、やっぱりこの人にあまり期待はできない。




私のそんな考えは、



「お前は目立つからなぁ〜」



担任のどこか他人事のようなその言葉で更なる確信へと変わった。

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