第79話

私の机は今日もちゃんと窓際の一番後ろにあった。


そこに向かって歩き進める中、私はその席に到着する前に昨日セイが机の脚に嵌めてくれた脚キャップが一つ取り外されていることに気がついた。


しょうもな…



机の真横まで来た私は、すでに落書きだらけの机にそっと右手を乗せた。


その反動で、机は大きくガタついた。


四つある脚のうちの三つだけキャップを嵌めていることで、そのガタつきは昨日よりも大きなものになっていた。



何も考えない。


動揺なんてしてやらない。



ただ、心の底からムカついた。


きっとこれが私一人でつけたものならばここまで腹は立たなかったと思う。



“ついでにこれ貰ってきたで”



セイはああ言っていたけれど、私はそれを単なるついでとは思わない。


あれは間違いなくセイの優しさだったはず。



私はその大きくガタつく机に持っていた鞄を引っ掛けると、すぐに体の向きを変えてある人を目指し再び歩き始めた。


自分の席にいるその人は、私に背を向けるように黒板側を向いて座って両肘を机に立てて携帯を触っていた。



「藤野、」


「机のキャップも落書きも私じゃないよー?」


「いや、そんなのはどうでもよくて」


「……」



本音を言えばどうでもよくはないのだけれど、犯人探しなんて必要ない。


こうなることをどこかで予想できていたのに防げなかったのは私のミスだと思うから。


私が聞きたいのはそっちじゃなくて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る