第77話
翌朝学校の最寄り駅に向かうと、出入り口にはしっかりセイの姿があった。
「おはよう」
先に気付いて声をかけたのは私だった。
壁にもたれて携帯を触っていたセイは、パッとこちらに顔を上げるとすぐに携帯をズボンのポケットにしまいながら笑顔で「おはよう」と言った。
「またコンビニでご飯買ってきたん?」
「うん。昨日と同じやつ」
「またぁ?」
「いいじゃん。セイが食べるんじゃないんだし」
「まぁそうやけど」
私達のこんなやりとりも人が聞けば何の変哲もない高校生の朝の会話に聞こえるけれど、それを食べるのが猫でご飯は缶詰の餌なんだから普通じゃない。
「ん、なら行こか」
「うん」
セイは私の返事を聞くと当前のように私の手を取ったけれど、手を繋いで歩き出した私達のこの様子だってどこにも普通はない。
そこにドキドキなんてものはもちろんなくて、昨日の今日だから私はもうセイと手を繋ぐことにあまり特別な何かを感じることすらなかった。
どこにでもいそうな普通の高校生カップル。
これが偽物だなんて、一体誰が思うだろう。
コトラは今日も今日とて可愛かった。
ご飯も、セイには文句を言われたけれど、コトラはちゃんとその全てを食べていた。
「コトラって大きくなってるのかな…」
コトラに別れを告げ学校へ向かい歩き始めてすぐ、私はボソリと呟くようにそう言った。
「え?そらなってるやろ。生きてんねんから」
「でも見つけた時からもう五ヶ月くらい経つのにまだあんなに小さいんだよ?病院とか連れて行ったほうが良かったりするのかな」
「大丈夫やて。人間だって大きさなんかバラバラやん。飯食うてへんとかなら分かるけど、昨日も今日もあれだけ食うてるし」
「うーん…」
一度芽生えた心配はセイに何を言われてもそう簡単に引っ込むことはなく、学校に着いて教室の前に行くまで私はひたすらコトラへの不安をセイに聞いてもらった。
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