第72話
「でも一つだけ、いい?」
「はぁ?」
「こんな時間まで何してたの?」
「なんでそんなことお姉ちゃんに言わなきゃならないの!?」
「だって心配になるよ。中学二年生が高校生の私より遅く帰ってくるなんて。お母さんだって心配し」
「うるさい!話しかけてくんな!!」
今一度大きな声で私の言葉を遮ったサナは、そのまま自分の部屋へ行くとガンッ!と強く襖の戸を閉めた。
あの時までは、私達はそれなりに仲の良い姉妹だった。
お父さんが死んだのは十年前。
その時私は六歳で、サナは四歳、お母さんは三十五歳だった。
元々は一軒家に家族四人で暮らしていたのだけれど、お父さんが死んでからこの団地に三人で越してきた。
「当時はお金がなくて先のことを考えると怖かった」とお母さんはその時を懐かしむように話してくれたことがあるけれど、それでも私は寂しいと思ったことはこれまで一度もなかった。
女三人の生活はある意味気楽で楽しくて、思いつきで夜な夜な銭湯に行ったり翌日学校が休みなら三人で夜中までテレビを見てダラダラ過ごしたり…
毎日お父さんの写真に手を合わせるお母さんは、お父さんのことが大好きだったのだろう。
夜中に食べるお母さんの塩おにぎりは絶品だった。
サナのちょっと下品な笑い声は私とお母さんの笑いをさらに誘ってくるから、この家には絶対に必要不可欠だと思った。
夏休みになれば毎日のようにサナと二人でお母さんのパート先である近所のスーパーに行って、涼むついでに仕事中のお母さんを見に行ったりもした。
全て大好きだった。
愛おしかった。
ずっと続くものだと思っていた。
だけど、もう遅い。
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