第69話
極めつけには「『早くヤラせろよ、クソビッチ!!』」なんて言葉も投げられて、なぜか私は少し眩暈がした。
「ほら!ね!?こんっなにガンガン愛を送りまくってんのに!!てか今もだよ!?そんな無視ばっかしないでよぉ!!」
そう言って背後から両肩をガシッと掴まれて揺さぶられた時には、私は思わず全身に力を入れて目の前のポールに慌ててしがみついた。
それでも無視を続ける私に、
「…おい、」
いまだ両肩を掴んだまま、私の右耳にその男が背後からそっと顔を近付け囁いた。
「お前藤野って知ってんだろ」
「っ、…」
藤野———…
「俺アイツの親友」
「……」
「お前アイツの彼氏にちょっかい出してんだって?」
「……」
何の話をしているの…
私は藤野に彼氏なんていたことすらも知らない。
「お前に取られるって泣いてたんだけど。お前アイツに何してくれてんの?」
「……」
男にふざけるような様子はもうどこにもなく、右耳に直接注ぎ込むかのように聞こえるその声はとても低くて怖かった。
私の肩を掴むその両手だって、初めよりも幾分力が強い。
彼氏を取られる?泣いてた?
…意味が分からない。
その話に心当たりなんてもちろんないけれど、何も言う気にはなれなかった。
だってこの男にとって私の言葉と藤野の言葉の重さや信憑性はまるで違うだろうから。
どちらの言うことが真実かなんてどうでもいい。
この人にとって大事なのは藤野が何を言うか、だ。
そんなことよりも今は頭が痛い。
体全体が揺れている。
これは電車の揺れのせい?
それとも———…
「欲求不満ならいつでも俺らが相手してやるよ?」
男が変ないやらしさを含んだ声色で今度は私の右耳にぴたりと口元をくっつけてそんなことを言ったもんだから、全身に鳥肌が立った私はちょうどよく目の前のドアが開いたのをいいことに慌てて外へと飛び出した。
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